第5話 バケモノとケダモノ

「⋯⋯カイナ、なんで⋯⋯」

「我が主のためならば、当然のことです」

勘当された貴族を助けること、それは実質メイドという職を失うということ、それを俺なんかのために⋯⋯

「ふぐっ、ありがとう、カイナ⋯⋯」

涙が止まらない、嬉しくてたまらない。味方がいるということがこんなにも嬉しいことだなんて思わなかった。

「ジル様、あとは私に任せて下さい魔術・系統・花・風舞う花弁」

カイナがそう言うと、俺の周りに花が咲き始めた。綺麗な白色の花だった。

するといつの間にか俺はカイナの隣に座っていた。

「これはカイナの魔術か?」

「はい、ジル様の助けとなるように日夜研鑽し尽くした魔術の一つです」

そう言って、メイド服のスカートの裾を持ち上げ可憐にお辞儀をする。だけどそのメイド服は穴だらけになっていてもうボロボロだった。

「⋯⋯ありがとう」

「いえ、ジル様の為ならば!だって私、ジル様のメイドですもん」

あぁ、今やっとカイナの顔をちゃんと見た。眩しいくらい美しい青色の瞳に整った顔立ち、そんな顔の美しさを際立たせるような切りそろえられた肩まで伸びた橙色の髪、そして完璧なスタイル、歯を見せたその笑顔も目が痛くなるくらい眩しかった、それら全てがカイナという人間を形作っていたんだ家にいた頃はずっと下を向いてばかりでカイナがいることなんて当たり前だと思っていた。だけど違うんだ、カイナが俺と一緒に居てくれたんだ。俺はそれに気づけなかった。


「ジル様、今はどうか安心してお眠り下さいあとは私が何とかしますので」

「⋯⋯ダメだカイナ、俺も戦う、俺はカイナも失いたくない」

カイナのスカートの裾をつまみ懇願する。

「嬉しいことです、ですが安心して下さい、私強いですから、魔術・系統・花・眠り花」

そう言ってまた笑い、空中に綺麗な紫の花が舞う。

「まっ⋯⋯」

まずい意識が、と、ぶ⋯⋯カ、イナ、行っちゃやだよ。



「ゆっくりお休みくださいませジル様」

カイナは気持ちよく息をして眠っているジル・グルーカスの髪を撫で、微笑む。

「誰なんだお前はよォ、そこをどけ素直に言うこと聞けば見逃してやるよ」

「いかにも弱い奴が言うようなセリフ」

「あぁ!?」

カイナは焼け落ちた木の欠片を拾い上げ、まるで目の前の男達の事など眼中に無いかのようにその木を握りつぶす。

「ジル様はすごいんです、誰よりも高貴でプライドが高くてかっこいい、そして時々可愛いそんな御人なんです、そんなジル様をこのようなっ!」

「っ!?」

ドンッ!と大気が揺れた。いや、実際には揺れてなどいないのだろう。だがそう思わせるほどの気迫が今のカイナにはあった。


「死にたいやつからかかってきなさい」

カイナは挑発するように手首を動かし、暗殺者集団を煽る。

「舐めやがって!おいお前ら、合成魔術だ!」「「了」」

その声がけと共にリーダーらしき男の元に数人の男が固まる。

「合成魔術・系統・水・炎・草・鳳凰の舞」

男たちの前に厳かな雰囲気をまとった、風見鶏のようなものが現れた。するとその鳥はその場で否応なく炎を撒き散らし始めた。

「うわぁー!おかぁざん!どこぉー」

その鶏による攻撃は無差別なものだ。そのため被害が民間人にも広がっている。


「全く持って品性が無い、教えてあげる、魔術というのはねぇこういうものよ」

「魔術・系統・花・涼花絢爛りょうかけんらん

カイナが放ったその魔術は泣いている少年に行った火の玉も自らに襲ってきた火の玉も一つも残さずその巨大な一輪の花ですくいとった。そしてついでと言わんばかりに炎の鳥も吸収し消し去った。


「⋯⋯なんでお前みたいなやつが俺らの合成魔術を消せるんだよ」

そう今の事態はありえないことなのだ。合成魔術、それは一人の人間が使える魔術の許容を超えた大魔術、大人数でしか使えない強力なものだ。だからこそ一人の人間がそれもたかがメイド一人が止めていい代物では無い。


「死ぬほど鍛錬しただけ、ジル様のメイドとして恥が無いようにね」

「いや、お前は既にそのガキより」

「今は確かにジル様より私の方が強い、だけど私なんてすぐに抜かされる、だってジル様ですから♪」

心の底から楽しそうに笑うカイナに男達は狂気のようなものを感じた。

「バケモノめ」

「じゃああなた達はケダモノね」

ぎゃっとカイナが作った一輪の花は男たちの首だけを刈り取った。より残酷に見えるように、血飛沫が多く上がる殺し方で男たちを殺したのだ。

そしてその場に残ったのは男たちの血しぶきにまみれ、ジルを優しく抱くカイナと血がこびりついた一輪の白い花だけだった。









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