先を見据えて

 8合目会議が終われば開発も終盤にさしかかる。私のやることはそれまでと変わらない。予定通りに開発を進める。技術的に困難なこともそれほど残っていないから、失敗することはないだろう。


 だけど、新しい課題もできてきた。それは技術的なことではなくて、どちらかというともっと大きなこと。私はこの後何がしたいのだろうか。基本的な目標が達成できたその先に、どこを目指すのか。未踏に応募するときに、最初の目標は見えていた。でも、夢物語を現実にする同期や先輩の姿を見ていると、壮大な目標は必要なんだと思う。それがはっきりしていないと、進めない。ある程度まで作って、それで終わってしまう。


 未踏は文字通り未踏の道を進むものだ。道はなくても、遠くに光が見えているなら、それに向かって進むことはできる。だけど、手の届く範囲しか見えていないなら、進むことも難しい。リングワンダリングという現象がある。山で遭難したとき、進んでいるつもりなのに同じ場所をまわってしまうそうだ。とりあえずで進んでいれば、進んでいるつもりで同じ場所を堂々巡りしてしまう。


 未踏の間は、最初に設定した目標がある。そこに向かって進めばいい。成果は残したいから、今は立ち止まって考えているときじゃない。でも、それを頭の片隅に置いて考えて、未踏が終わった後に考えようと思う。私は、私の開発するものが役に立つと確信している。そうであれば、先へと進まないといけない。


 これもPMからの受け売りだけど、未踏のプロジェクトには2つのタイプがある。実験的で未踏で可能性を示せばそれでいいものと、時間をかけて花開くもの。私が作るのは、あくまでも実用的な目的のためのシステムであり、そのプロトタイプ。未踏の後に時間をかけて花開かせるものだ。どこに向かうにせよ、この先も歩み続ける。グルグルと同じ場所を回るわけにはいかない。


 私に色々な変化を与えながら、未踏の日々は進む。気づけばもうほとんど終わりに差し掛かっている。皆はどんな道を進んでいるのだろう。そして、私たちはその後にどこへ進むのだろう。

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