第4話 今が未来

 脳神経内科の医師は、若く柔和な感じで、一見少し頼りなさそうに見えたが、これまでで一番しっかりと診察をしてくれた。聴き取りを細かくしてくれて、神経の痛みに関する説明もわかりやすくかつ専門的に話してくれた。薬の飲み方や増やし方減らし方も細かく指導してくれて、治療の計画も毎回わかりやすく伝えてくれた。良いドクターに出会えた。

 とはいえ、仕事をしながら通院治療し、以前よりはよいものの、なかなか痛みが消えないまま半年が過ぎようとしていた。


 寝込んで起き上がれないほどの痛みではないので仕事は休まずに勤務し、それでも、ずっとジワジワ、ギューっと左側が痛い。神経痛の薬を飲んでも、完全に痛みはなくならない。薬のせいで頭はボーッとしながらも、仕事は忙しく座る暇もない。そして、家では、ほぼ横になっている生活となる。家でのわたしは、絵的にナマケモノそのものだった。

 ここ数年、外に仕事に行き、家では疲れてゴロゴロする傾向となっていた母が、娘の中の母の記憶として定着するのは阻止したく、もっと小さい時にママと温泉行ったね〜プール行ったね〜動物園も行ったね〜と事あるごとに言っていたが、どうやら、その記憶はどんどん薄れていっているようである。ウソかホントか、記憶にございません!と言われることもある。そして、ご飯も、ちょっと前まで、夫の弁当も作り、夕飯も、仕事の合間の時間を使ってでも、わたしが作っていたのに、夫がスキルアップして、夕食を作れるようになり、それが普通となっている今、娘の中で、ご飯を作るのはパパ、となっている。前はママが作ってたよね〜と足掻いてみても、そうだっけ?とあしらわれる。

 ああ、痛いし、もどかしい。わたしは、この娘のお世話して一緒に楽しく日々を過ごしたいのに、それはできないまま、嫌な仕事にだけ行っている。そんな思いも抱えながら、ただただ痛みを薬で抑えて仕事に行っているこんな日が、もう半年も続いている。流石に心身ともに爆発しそう。爆発なら派手で景気いいが、プスンと地味に稼働停止しそう。

 こんな状態を続けて、わたしが再起不能になってしまったら…家のローンに税金に、とても困るし、すでに家では再起不能状態だった。

 そこで考え始めたのは、これを変えるにはどうしたらいい?心身共に一旦休ませねば。そう思ったら早いのです。いろんなしがらみや世間体など関係ない。せっかく入った高収入の職場を退職することにした。

 未来のいつかのための「今」でなく、「今」が続いて未来ができていると思っている。「今」が苦しければ、一旦止まって、より良い「今」になるよう考えよう。

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