告白

 次の日、私はあの部屋に行くか迷っていた。あのドアを開けたら何が待っているのか。恐怖と好奇心が競り合っていたが、放課後になるころには好奇心が勝っていた。私は部屋の前に来ると、ドアをノックした。


「どうぞー」


 昨日とは声が若干違う。温かみのある優しい声だ。私はドアノブを捻り中に入ると、霧島先輩は机の上に足を組んで座っていた。白い足と足の間は暗くてよくわからない。


「今日は裸じゃないんですね」

「あぁ、そういう気分じゃないからね。気になるかい?この下が」


 彼女はその青白く、細い手をスカートに掛けた。目線がバレている。


「人間は誰しもわからない物を知ろうとする。これは本能だと思うよ。誰も抗えない、抗おうとしない欲。好奇心という名の欲だ」


 彼女は机から降りると、こちらに近づいてきた。少しずつ近づいてくる彼女に、思わず後ずさりしてしまった。背中をドアが突いたとき、先輩は目の前まで来ていた。


「しかし、何事にも限界がある。好奇心もそうだ、限界がある。しかし、知りすぎると取り返しがつかないことになる」


 先輩の冷たく、細い手が私の右手を握ると、股に手を伸ばす。私は息をのんだ。


「でも君のそれは他の人とは違うね。まるで空腹な獣のように欲している。人のソレではない。限界を知らないように」


 だんだんと、スカートの中へ私の手が入っていく。冷たくも、生暖かい感触が近づいてくる感じがする。


「見ていて実に面白い。愚かで、愛おしくなってくる」


 顔を近づけて耳元で先輩は囁いた。


「だから.....いいよ。触っても」


 私の中で、何かにヒビが入る音がした。ガラスのように脆そうで固い何かは軋み、崩壊寸前だった。私は下唇を噛み締め、耐えようとした。先輩は目を細めて、私の目をのぞき込んでいる。真っ黒に渦巻いているその目で。


「いや...。私は....そんなんじゃ...」


 私は枯れた喉から絞り出すように言った。


「じゃあ、なんだい?」

「裸なんか以前より、この胸の痛みが何か知りたいんです。私の心を、体を、頭をかき乱すこの痛みの正体が。あなたのことを考えると起こる、この発作が」


 そう言うと先輩の口元がゆがみ、笑い始めた。今までそれが嘘だったかのように可笑しく、楽しそうに。ひとしきり笑うと、先輩は口を開いた。


「いやぁ良いね!思った通りだ。君は面白いね。好きだよ、君みたいなの」


 自分の言ったことが少し恥ずかしくなってきた。笑っている先輩を見て、私は目線を窓の方にそらした。外は曇り気味だが、雲の間から日光が差し込んでいる。まるで雨が降った後のように。


「なら、私と付き合おう。私が何者なのか普段何をしているのか、裸だって、なんでも教えてあげよう」

「何でもですか?」

「そう、ナンデモね。君のそのテンプレみたいな告白に免じて」


 先輩は私から離れると、再び机に戻り座った。


「でも条件がある。それは私との関係を私の卒業まで言わないことだ」

「何故です?」

「私は人気者だからね。それがバレたらみんな嫉妬するだろうから。それで?返事は?」


 しばらくの沈黙の後、私は頬を赤らめながら無言で頷いた。


「面白くなってきたね。今日からよろしくね、マキ」


 先輩は優しそうに微笑んだ。私は口の中が甘酸っぱく感じた。








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