第12話:外に出たくない

「で? 猿谷のやろーと、岸田のやろーはどうなったん?」


「口わるっ!」




 月曜になり、「事件」の顛末を伝えると猿谷と岸田は無期停学になった。綾は軽い人間不信になって、月曜日学校を休んだ。少し体調が悪かったのもあったけれど、人間不信で体調不良なのか、単にたまたま体調不良なのかは誰にも分からない。



「だーって、私にお酒飲ませるとか、あり得なくない!?」


「まーな、未成年に飲酒させただけじゃなくて、お持ち帰りしようとしてたわけだからな。悪質だ」



「お持ち帰り」というと軟らかい言い方だけど、「婦女暴行未遂」だからな。クラスの中でも、猿谷と岸田にかなり負の感情を抱くヤツが多かった。月曜日、二人とも何食わぬ顔で登校したが、すぐに帰されたのだ。その後、緊急職員会議があったらしい。



「多分、狙われたのは綾と美紀ちゃんだ。好きだったのか、嫌いだったのか、よく分からんけどな」


「私とか なんもせんでも勝手に好かれるけん、どうしようもないっちゃけどないんだけど



 普通のやつが言ったら頭をどつかれるような発言だけど、綾の場合思い上がりでもなんでもない。実際、今のクラスでも半分くらいの男子に何らかの方法で告白されている。外面がいいからなぁ。



「学校からお前には連絡ないの?」


「あ、午前中に電話があった。とりあえず、3日間は休んで良いって。公休扱いらしい」



 ブイサインを出す綾。思ったより心のダメージは大きくなかったのかな?

 それはいいけど、その休みの間に俺んちで遊んでいるのは何故だ。綾はうちの鍵を持っていて、自由に入ってこれると言っても、俺のいない時に俺の部屋にいる意味はないだろうに。



「あと、警察も来るらしい。学校のカウンセラーの先生と一緒に」


「思ったより大事になりそうだな」


「うーん、悠斗が助けてくれたから、もう別に気にしとらんちゃけどねぇ」


「学校じゃ俺がお持ち帰りしたことになってたぞ。めちゃくちゃ色んなヤツに質問攻めにされた」


「どうやって答えたの?」


「なんかいい具合に」


「抽象的!」



 カラオケの途中で突然帰ったわけだし、その時に綾を連れ出している。なんにもないとは思わないだろう。一応、体調がおかしいように見えたから いち早く連れ出した、みたいなもっともらしいことは言っておいた。



「ま、これでしばらく連れ出されることもないね。オンラインゲームが捗る♪」


「引きこもりか」



 綾は意外とケロッとしていた。まあ、なによりだ。



「だーって、3日間も学校から休みがもらたんよ。そりゃ、ゲーム三昧でしょ!」


「そんなに元気なら明日から学校行け!」


「ふふふふふ。悠斗がいない間に部屋でお宝探しを……」



 ベッドから頭だけ出して、ベッドの下の空間を覗き込む綾。いまどきそんなとこに何を隠すというのか。

 とりあえず、頭を軽く叩いてツッコんでおいた。



「言い寄られるのは悪い気はせんけど、こんなんなったら ちょっとねぇ……」



 綾が少し表情を曇らせた。



「虫よけ的に俺と付き合ってることにするか?」


「マンガとかだと、偽装彼氏と偽装彼女をしていくうちに段々本当に好きになるパターンのあれ? 悠斗私のこと好きと?」


「まあ、嫌いではないけどさぁ。実は今回の件でメチャクチャ言い寄られてる。ほら」



 俺はLINEのメッセをみせる。今日だけで6件、遊びに行こうとか、好きになりましたとか、お誘いをもらってしまった。



「ああ……バスケとかかっこよかったけんねぇ」


「美紀ちゃんからも改めて……」


「え?美紀ちゃんいいやん! 可愛いし! 控えめやし、悠斗と合いそう。第一あんなに好き好きビーム出しとーのに、ダメなん?」



 中学の頃は、告白されて付き合った子もいる。ただ、モテるのも考えもので、特定の彼女ができると何故か、更にモテ始める。そして、彼女が嫉妬に耐えられなくなって泣きながら振りに来るパターンが多い。

 相手は精神的にボロボロになってしまうし、俺と付き合ったことでその後「やり棄てられた」とか「中古」とか心無いことを噂されて二重苦なのだ。


 相手を好きになるという事は、相手のことを知ることであり、多少なりとも感情移入するし、情も湧く。その上で、ボロボロになって行くのを俺では止めることができないのだ。



「美紀ちゃん良い子だからなぁ……」


「ちょっと!なん!じゃあ、私は悪い子なん!? さっき、偽装彼女にしようとしとったろー!?」


「まあ、綾は綾だしぃ……」


「むっかー!付き合おうか⁉ 付き合ってぼろ雑巾のように捨てちゃーけん!」



 この姿を教室のクラスメイトが見たら、どう思うのか。いつものニコニコ営業スマイルはどこに行った。



 ***



 結局、この日は綾の両親も帰ってきて、警察の事情聴取を受けていた。まあ、綾は全然悪くないから、本当に事情を聴かれただけだった。問題はそこじゃない。うちと綾の両親が共にしばらく心配だからと、俺と綾が一緒に登校するようにとのお達しが出てしまった。



「うっわ、嫌そうな顔! なーん!? こんな美少女と登校できて嬉しくないと!?」



 なんでもいいけど、綾は意外とめんどくさい女だった。俺にだけ容赦ない。クラスのやつらに見せてやりたい。俺は明日から学校に行って みんなになんて言って誤魔化すのかばかり考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る