第11話:カラオケの罠
既に、当初思っていた12時はとっくに過ぎているが、会のエネルギーはまだまだ有り余っていて、誰かが提案した「次、カラオケ行こう!」という意見はすんなり通り、ぞろぞろとカラオケに行くことになった。
俺は正直、もう帰りたかった。綾も表面上はニコニコしているけれど、あの表情は疲れている顔だ。
美紀ちゃんにガッカリされるはずが、ボウリング、バッティングセンター、バスケットと良いところを見せてしまった。
俺はまた思いついてない。
美紀ちゃんにガッカリされつつも、この会を早々に帰ることができる方法を。
***
まさか、25人が一度に入れるパーティールームがあるとは思わなかった。
かなり広くて、テーブルだけでも10卓はある。壁の二面は据え付け型のソファで、それ以外に円柱型の椅子もたくさん置いてある。壁の一面はステージになっていて、もしかしたら楽器なども持ち込めるようになっているのかもしれない。
猿谷と岸田はトレイを持ってきて、みんなにジュースを配っていた。別にバスケに罰ゲームとか設定してなかったけど。
男はコーラで、女子はオレンジジュースってセンスなさすぎだろ。でも、場の雰囲気を悪くしたお詫びというのならばそれも悪くない。どうせドリンクバーであいつらが金を出している訳じゃない。コーラが気に入らなければ2杯目からは好きなのを注いで来ればいいだけだ。
みんな好きな曲を入れて好きに歌っていた。
「バスケでは少しは活躍できたかな?」
横に座っていた浅越が聞いてきた。これだけ人数がいると歌える人は1人だから、他の人間はそれぞれ話始める。
「バッティングでも俺よりホームラン打ってたし、バスケでは素人の俺と組んでバスケ部二人倒すとか、大活躍すぎだろ」
「そっか」
少し嬉しそうな表情を浮かべる浅越。本当にこいつは何を考えているのか分からない。
「お前がどんな高みを目指してんのか、俺は怖いよ。大体、今回はやたら絡んでくるんじゃない?今までこんなことなかったろ?」
俺たちは1年の時から同じクラスのなので、1年以上経過してある時突然仲良くなるというのは割と珍しいケースだろう。
「うーん、じゃあ、最近 小林さんのことが気になるから、ってのはどうかな?」
浅越が顎を触りながら言った。なぜ、俺にそれを言う。
「アタックかけるなら、本人に直接行った方が良いんじゃないか?」
学校では俺と綾はほとんど交流がない。関わらないようにしているから。「将を射んとする者はまず馬を射よ」という言葉はあるけれど、つながりのない人間なので、俺は馬と認識されないはず。こいつは何か知ってそうで怖いところがあるな。
「浅越くんは、小林さん狙いなの? あ、ごめん横で聞こえちゃって……」
スムーズな感じで会話に入ってきたのは、俺の反対側に座っていた美紀ちゃん。さりげなく俺の隣に座っている辺り、ちゃっかりしているというか、抜け目がないというか……
綾は美紀ちゃんの隣に陣取っていた。あまり近くにいるのも何だし、遠くだと何かあった時に対処できない。この変な空間では、王様ゲームをしようとか、ポッキーゲームをしようとか、変なことを言いだすやつがいてもおかしくないからだ。
「じゃあ、今度、私と小林さん、羽島くん、浅越くんの四人で遊びに行かない?」
ダブルデートの提案は美紀ちゃんからだった。意外と肉食系なのか。割と積極的だな。
今日だけでも面倒なのに、これ以上休みの日を潰されてたまるか。綾に言って話をぶち壊してもらおうと思った。
「小林さんは……」
美紀ちゃんの隣に座っていた綾の表情がおかしい。「あははー」なんて言っているが、目が開いてない。
「悪い。急用ができた。これ、俺の分、払っておいてくれないか」
そう言って、浅越に2人分のお金を渡し、有無を言わせず部屋を出る。ただ、出る時に綾の腕を掴んで一緒に引っ張り出した。
「なにー?」とかのんきに言っていたが、体調がおかしいのは明らかだった。一瞬、ザワついた室内だったが、誰も追いかけてこない。俺たちにとっては好都合だった。明日以降の言い訳は面倒になりそうだけど、とりあえず、抜け出すことは成功した。
エレベーターで1階に降りる道すがら、綾は明らかにニコニコしていた。
「おい、綾どうした? 大丈夫か?」
「大丈夫ですけど!? それが何か!?」
明らかに挙動がおかしい。くねくねしているし、笑いが止まらないみたいだ。状況が分からないので、とりあえず、コンビニで買った水を飲ませた。地下鉄での帰宅は難しいと判断して、タクシーで連れ帰った。
家に帰ると、例によって家には誰もいなかった。とりあえず、綾をベッドに寝かせた。
「悠斗すごかったねぇ、かっこよかったねぇ」
ニコニコしているけども、目が開いてない。起きているのか、それともこれは寝言なのか。
(テトテトテトテトペン)
スマホが鳴った。
「はい」
「羽島くん?水守です。小林さん大丈夫だった?」
美紀ちゃんだ。ビックリした。なぜ俺の連絡先を知っているのか。
「あのね、女子のジュースの何個かにアルコールが入ってたみたいで……」
「は⁉ みんなは大丈夫なのか!?」
「あ、うん。こっちはみんな大丈夫みたい。念のため、男子と女子が1対1になって家まで送ることになったの」
「猿谷と岸田は?」
「あ、よく分かったね。あの二人がアルコールを入れた犯人で、今 浅越くんが問い詰めてる」
今回の会は男子13人、女子12人だったか。俺と綾が抜けたので、12人と11人。男子から猿谷と岸田を抜けば、男10人と女11人。
「猿谷と岸田を外したら、女子が1人多くならないか?」
「うん、そうだけど、私はジュース飲んでないし。大丈夫だから一人で帰るの」
「体調が悪い人とかないの?大丈夫?」
「猿谷くんたちの話では、アルコールを入れたのは2個だったらしいの。だから1個は小林さんのじゃないかって思って。もう1個は私のかも。ジュースを飲んでないの私だけだったし、体調不良の人はいないから」
「無事ならなにより。念のために気を付けて。あと、こっちは大丈夫だと思う」
「そう、よかった」
猿谷と岸田の断罪は週明けになりそうだ。アルコールを盛ったとか、もはや犯罪以外のなにものでもない。
「綾、大丈夫か?」
具合が分からないので、額に手を当ててみる。綾の体温が伝わる。
「あうー」
それはどんな気分を示すときに発する言葉なのか。ベッドに仰向けになっている綾が目に肘を当てたままで変な音を発した。
次の瞬間、綾の白い腕が俺の首に伸びて、上半身ごと引き寄せられた。気づけば、ベッドに仰向けに寝ている綾に抱きつかれて、俺は綾に覆いかぶさっている状態。
「綾?」
これはいくらなんでもくっつきすぎだろ。なんか、いい匂いがする。綾ってこんな匂いだったか!?
※作中のお店は架空のお店です。実際のお店とは関係ありません。
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