第10話:いびつなバスケ勝負
バッティングセンターでの俺と浅越の活躍の後、浅越と女子8人を連れて本体に合流した。みんなどこにいるのかと思ったら、バスケットコートにいた。元々女子は全部で12人しかいなかったので、8人も連れて行ってしまったら、一部の人間はしらけてしまっていたようだ。
女子目当ててきたヤツも多いだろうから、その点はしょうがない。
「羽島!勝手にどこかに行ってしまったら困るじゃないか!」
開口一番文句を言い始めたのは、猿谷だ。まあ、確かにいち早くボウリングを終わらせて、次に移動したけどな。
「悪いな、遅いやつがいたんでちょっと身体動かしてきた」
俺はバッティングのフォームをして見せた。
「ったく……」
その遅かったやつが猿谷のグループなので、二の句が出なかったようだ。元々好きに遊んでいいはずだ。こいつに仕切らせてその下でしか楽しめないなんて間違っている。
ついでに、俺がバッティングセンターに移動したときは、近くのヤツに言ってから移動したけれど、それを伝えてもらえなかったあたり人望の無さも実に残念だ。
「じゃあ、俺たちは見てるよ」
「そういうなよ。こっちもようやく身体が温まったところだ。勝負しようぜ」
猿谷の笑いが歪んでいた。どうしてこう、悪いそうなやつは悪い顔をするのだろうか。
「2ON2やろうぜ」
猿谷がそう言うと、横にクラスメイトの岸田がやってきた。岸田のエピソードを何か聞いたような気がしたけれど、覚えていない。まあ、その程度の話なのだろう。もう忘れた。
「俺は一人だけど?」
「誰でも一人選べよ」
なぜ、もうやること前提なんだよ。
「じゃあ、俺が」
浅越が名乗り出た。俺は指名してないぞ? 浅越は運動神経もよさそうだし、背も高い。バスケには向いていると思う。
勝手に話は進んでいき、
俺+浅越 VS 猿谷+岸田
というバスケ2ON2勝負が決まっていた。
正直遊びだし、負けても全然気にしない。
だけど、俺たちの勝負に全ての女子が注目していた。しかも、他の男子も試合を中断したり、やめてしまったのだ。大注目の状態なので、とても負けにくい。
「羽島、バスケの経験は?」
浅越が人差し指で回転したボールを保持しながら聞いた。この時点で、浅越は「俺は経験者だけど?」と言っているようなものだ。一方、俺は特訓こそしたけど、一人でしかしたことないので、相手が2人もいる時点で動きが読めない。
「体育の授業レベルだよ」
「ふーん」
浅越は、少し面白くなさそうに答えた。
さて、試合開始っと。俺はさっさと負けて、帰ろうという腹積もり。10ポイント先取で勝ちらしいのだけど、それが多いのか少ないのか。
バスケットと言えば、ゴールに近いほど点は低く2ポイントで、遠くからのシュートが入れば3ポイントだったか。その境には線が引いてあるから分かりやすい。ボールは持ったまま歩いたら反則、と。俺にはそれくらいの知識しかなかった。
ボールは猿谷が持っている。やつらが先行だ。
ダム、ダム、ダム、キッ、ズバーン!
猿谷は、俺の一瞬の隙を見て俺の横をすり抜け、最短コースでゴール下まで行き、シュートを決めた。その動きは、とてもスムーズで一目で猿谷がバスケ経験者だと分かるものだった。
女子たちの残念な歓声が上がる辺り、あいつらの人望の無さよ。
「タイム―! ごめん! 靴紐がほどけた!」
浅越がタイムをかけて靴紐を結び始めた。大丈夫か?こいつは。早速タイムしやがって。
俺が浅越の近くに駆け寄る。
浅越は靴紐を結びながら、俺の顔を見ずに言った。
「岸田と猿谷って確かバスケ部だよ?」
「マジかよ。汚ねぇ!」
「女子たちに良いところを見せるためにバスケットコートで待ってたんだろうね」
「別に負けてもいいと思ってたけど、その話を聞くとみすみす思い通りになってやるのも面白くないな」
ここで浅越が顔を上げて俺を見た。
「実は、俺にいい作戦があるんだけど、乗っかってみない?」
ふと、綾を見たら不安そうな顔をしてやがる。胸で掌を重ね、祈りのポーズでこっちを見ている。
バスケ未経験者の俺が、現役バスケ部二人に勝つには、こいつの作戦に乗っかる以外なさそうだった。
***
「おっしゃー!決まったー!」
シュートを決めたのは俺だった。
一時は、0-5までリードされてしまったが、ここでやっと1ポイントゲットだ。
クラスの女子たちの黄色い声援が今は気持ちいい。
猿谷と岸田は二人ともバスケ部でボールの扱いになれていた。しかし、浅越によれば、あの2人には決定的な弱点があるという。
一つは、猿谷の背の低さ。ゴール下以外からのシュートの場合、俺でも浅越でも身長差でブロックすることができる。だから、猿谷はゴール下からしかシュートしない。
そして、岸田は3ポイントのシュートがへたくそだった。打っても打っても入らない。つまり、こいつもゴール下からのシュート狙い。狙いが分かると動きも分かってくる。しかも、割と単調だ。
対して、浅越のシュートはすごく綺麗な放物線を描いてゴールにボールが吸い込まれていく。調子のいいシュートは、リングに触れることなくネットに収まる程だ。
そして、バスケ素人の俺は、猿谷、岸田をかき回しながら、ゴール下に控え、浅越のシュートが外れた時にあいつらより先にキャッチして、そのままゴールにゴールをたたき込むという単純な作戦。
単純だからこそ、にわかチームの俺たちでもできる作戦であり、単純だからこそ対策が難しい。この作戦の弱点が分かった頃には試合は終わっているだろう。
イメージ的には、持ち場を離れられない2人がマシンガンで俺と銃撃戦をしている時に、遠くから浅越がミサイルを撃ち込む様な作戦。俺のマシンガンはそのミサイルの軌道が邪魔されない様にも働く。場合によっては、俺がそのミサイルを爆破に行くのだ。
11-8 俺たちの勝利だった。
点数差は少ないけれど、相手が現役バスケ部であることを考慮したら、大金星だと思う。
「ふーん、体育の授業レベルね。授業レベルでフロントチェンジとか、レッグスルーとか習うんだっけ⁉」
フロントチェンジは、ドリブルしている手を右左と帰ること、レッグスルーは股下を通すことだ。相手がボールを取りに来るのだから、相手と逆側のドリブルに切り替えたりしただけなのだけど。
俺と浅越は、正拳突きの状態のグーの拳を合わせて勝利を喜んだ。
それに合わせて、試合を見守っていたクラスメイト達がコートに流れ込んできて、次々にハイタッチをせがむ。
俺はぶっちゃけあんまり活躍していないのだけど、チームとしては勝ちなので、とりあえず応じておいた。
「やるな!羽島!浅越!」(パチーン)
「すごい!二人とも!かっこいい!」(パチーン)
「さすが羽島くん!浅越くんもかっこよかった!」(パチーン)
男女構わずハイタッチしていたのだけど、さすがに20人くらいとハイタッチしたら、掌も痛くなる。
綾は、少し離れた位置でこちらを見ていた。一瞬目が合ったら「すごかったね!」という表情だったので「すごいだろう」と、どや顔をして見せた。まあ、ホントにすごかったのは浅越だけど。
「お疲れさま。すごかったね」
美紀ちゃんが再びタオルを持ってきてくれた。さすがに洗濯して返さないと申し訳ないくらい汗をかいた。
コートのはずれ、壁際に猿谷と岸田がいた。
「畜生! 畜生! 畜生!」
みんなに聞こえるほど大きな声で猿谷が地団駄を踏んでいる。
俺は勝ち負けよりも、負けた後の対処の方が後々人の印象に大きく影響するのではないかと思う。
バスケ部二人で素人の俺一人をやり込めようという作戦だったんだろうけど、半でもなしによく
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