第7話:イケメンのボウリングとは

 とりあえずの5人でボウリングを始めた。他のチームに比べてボウリングを早く終わらせることができれば、このグループで次のイベントに進むことができる。猿谷の様に不穏な動きをするヤツをいきなりシャットアウトすることができるのだ。


 しかも、色々周れば大体のヤツは疲れてくる。早く帰りたいと思ってくる効果も期待できる。綾をできるだけ早く解放させるには、このゲームを早く終わらせることがカギなのだ。


 ボウリングを1ゲーム早く終わらせる方法を知っているだろうか?それは、毎回ストライクを取ることだ。


 ボウリングは、ご存じのように10本のピンをボールで倒すゲーム。あ、協議の名前は、「ボウリング」が正しくて、「ボーリング」は間違いだ。前者は玉遊びで、後者は穴掘りの工事だ。しかし、ボウリングで使う玉の名前は、「ボール」だ。何故かなど知らん!勝手にウィキペディアとかで調べてくれ。


 さて、5フレームまで投げて、スコアはこのようになっている。


 羽島悠斗 :概ね130

 浅越涼 :105

 小林綾 :58

 水守美紀 :46

 村井静香 :12



 俺の概ね130というのは、5フレームまでパーフェクトだったからだ。6フレーム目と7フレーム目のポイントも足される予定なので、150になる予定だ。



 浅越もボウリングが上手い。5フレームまでで100を超えるというのは、ちょっとやりこんでないと超えないレベルだと思う。



「羽島、すごいな。ここまでパーフェクトじゃないか」


「サンキュ。俺くらいイケメンだと、スポーツも余裕なんだ」



 ああ、痛いことを言っている。こんなこと本当は言いたい訳じゃないけれど、少し陽キャを気取ってみたかったんだ。


 ストライクを取るたびに、グループの女子とハイタッチもしていたので、何となく連帯感というか、親近感も湧いてきていた。


 こうなってくると、綾と会話しても変な感じにはならない。



「羽島くん、ボウリング得意なんだね」



 綾が話しかけてきた。これは言葉通りの意味に捉えてはいけない。



『毎日ダラダラしているのにボウリングは私よりうまいんだね』



 という、不満の意味が含まれている。

 実は俺は昔 ボウリングを練習したことがある。俺のような天才と綾のような凡才の差は、2つある。


 1つ目は、情報収集の目だ。今初めてやったボウリングで次々ストライクを出し続けることなんて出来るはずがない。もしできるとしたら、それはマンガやラノベの主人公だけだろう。


 物事には必ず道理があり、コツがあり、王道がある。どこが抑えるべきポイントなのかをいち早く見つける目が必要だ。それに、上手い人と下手な人、そして自分を冷静に比較する分析力が必要だ。


 俺は事前にボウリングには3つの要素があることを把握していた。


 手首の角度

 立った時の自分の姿勢

 振り下ろすときの振り子の運動


 ボールをピンにぶつけて倒すのだから、当然ボールは重たい方が物理的なエネルギーが大きい。俺は、上手い人の動きを見て、どんな風にしているのか調べたことがあった。


 2つ目は、実直に取り組める地道さ。分かったくらいで上手くいけば誰も苦労はしない。理解することと、自分が行うことは全くの別問題だ。自分のイメージ通りの動きができているか、試行錯誤にはとにかく練習しかない。


 自分が思い描く理想の動きができているか、今ならば動画で撮影して自分で確認できる。


 気まぐれとはいえ、以前にやっておいてよかった。何事においても無駄になるという事はないのだ。



「えい!……おねがーい!……やったー!ゆう……羽島くん! 見て! ストライクだったよ!」



 綾がストライクを出した。勢いでいつもの様に呼びそうになったけれど、なんとか踏みとどまったらしい。こっちの方がひやひやする。


 先ほどの「天才」と「凡才」の話を訂正したいと思う。上手い人のプレイを見て、練習して上手になる……こんなのは天才とは言わない。単なる努力の人だ。俺は天才ではない。


 恐ろしいのは、綾の方だ。誰のプレイも見ない。練習もしない。ぶっつけ本番でいきなりそこそこの結果を出す。そして、段々とさらに良くなってくる。俺の知る限り、綾はボウリングが今回初めてだ。シューズを借りることすら知らなかったくらいだし。


 それなのに、恐らく1ゲーム目から100を超えるだろう。女の子でそんなヤツは中々いない。下手したら150超えるかもしれないのだ。あいつは間違いなく天才だ。


 俺は凡才、綾こそが天才なのだ。



「小林さんすごいなー」



 浅越が驚いている。ただ、引いたりしてないところが、こいつの懐の深いところだ。心までイケメン。それが浅越という男なのだろう。



 俺が椅子に座っていると、綾はわざと離れて座る。代わりに隣に座ったのが、美紀ちゃん……水守さんだ。「美紀ちゃん」は俺と綾が家でだけ勝手に呼んでいる愛称で、クラスではちゃんと「水守さん」と呼んでいる。



「羽島くんは、ボウリングが得意なんだね」


「俺は、苦手なこと以外はなんでも得意なんだ」


「ふふふ、すごいね」



 しょうもない冗談を言ったのに、軽く笑ってくれる美紀ちゃん。良い子なのかもしれない。フレームが丸い眼鏡をはずすと2ランクくらい可愛く見えることも既に知っているし、BLの薄い本が好きなことも知っている。オタク要素もあるので、付き合ったら意外に長く付き合っていけるのかもしれない。


 いかんせん、ちょっと消極的というか、控え目というか、物足りないところがある気がするのだ。もっとズカズカものを言って欲しいところもある。


 ……多分、これは俺の贅沢なのだろう。


 勝手な想像だけど、俺と付き合ったらドップリ嵌ってくれそうなのだ。執心というか、溺愛というか、ダダ甘というか、なんでも許してくれそう。その辺りが若干物足りない感じ。


 綾だったら絶対俺には靡かない。理想の彼女にあそこまで行ってほしいとは思わないけれど、もう少し強くてもいいと思っていた。



「でででででわっ!いいいいいって参ります!」



 敬礼と共にレーンと逆の方向に進んでいく村井さん。面白いからそのままにしておいてもいいけれど、連れ戻してボールのところまで連れていく。


 緊張なのか、なんなのか、挙動が不審で面白い。



「なんかうちのグループ、他よりも早く進んでない?」



 浅越が気づいてしまった。



「そうだな。俺とお前がストライク出しまくるからかな。どんくらい早く終わるか、他のグループに見せつけてやろうぜ」


「いいのか?他の人たちを置いておいて」


「早めに終わって、バッティングセンターに行ってみたくないか?女の子たちにかっこいいところを見せられるかもしれないだろ?」


「俺はボウリングよりバッティングの方が自信あるけど?俺の方が目立ってもいいのか?」


「おう!望むところよ!」



 浅越が安い挑発をしてきたので、ホイホイ乗ってみた。結果として、ボウリングが速く終わるなら何でもよかった。


 浅越が投げるタイミングで、綾が周囲に気づかれない様に合図を送ってきた。自分の服を見ているので、「バッティングセンターとか行っても私はこの服だからできないよ!」という事だろう。


 なぜ自分も参加する共うのか。真面目というか、律儀というか……バッティングセンターとかに行ったとしたら、男の俺と浅越がはしゃいで何ゲームか打ちまくるのだから、その間トイレに行くなり、休んでおくなりすれば楽だろうに。


 綾の性格が見え隠れして面白かった。



 ***



 俺たちが9フレーム目を投げ終わるころに、猿谷たちのグループはまだ5フレーム目だった。これで確実に彼らを綾から引き離すことができる。普通に言い寄ってくるのならばまだしも、姑息な手段を使って近づこうとするというのは、男としてあんまり気持ちのいいもんじゃない。


 猿谷たちのBグループは、よく見ると男ばかりのグループになっているようだ。他のメンツがガッカリしていて、ダラダラになっているので、他のグループよりもさらに遅い。思わぬところで「ざまぁ」が完成していたようだ。


 帰ってから綾に事情を話したら、ワクワクしながら話を聞いてくれるだろうなぁ。性格が悪いとかではなく、「リアルざまぁ」が身近で起きたことに対する驚きと、感動でワクワクする感じ。あいつもまた、心までリア充だから、他人の不幸を喜んだりするやつじゃないのだ。


 俺たちEグループの隣のDグループは逆に女子ばかりになっているようだ。クジに問題があったじゃないの⁉ 男女用で分けておけば、割合をコントロールできたものを……



「羽島くんと浅越くんのチーム早いね~」



 話しかけてきたのは、朝もあいさつした、鈴木さん、土屋さんたちだ。


 鈴木さんは、茶色のセーラー服っぽい私服を着ている。普段学校はブレザーなので、新鮮に見える上に制服マジックで更に可愛く見える。スカートはかなり短い。校則などないので好きに調節できるのだろう。気を抜いたら目で追いかけてしまうレベルだ。ショートカットも彼女に似合っている。


 土屋さんは、ボーイッシュな感じと言ったらいいのだろうか。グレーと白のパーカーで、フード部分が白になっているのだ。ダボっとしたパーカーに対して、下はピッタピタの黒のショートパンツ。足がすごく長く見える上に、太腿なのか、お尻なのか分からないところまで露出している。それが動いたときにチラリとダボダボのパーカーの下から見えるのだ。めちゃくちゃエロイ。



「俺たちもうすぐこのゲーム終わるんだけど、そのあとバッティングセンターに行こうかと思ってさ。一緒に来て応援してくれない?」


「きゃー!いくいく!」

「ホント⁉ 応援する!」

「羽島くんと浅越くんも行くの⁉」



浅越がクラスの子をナンパし始めてしまった。バッティングセンターに行くつもりではあったけれど、彼女たちを連れていくとしたら、10人の大所帯になってしまう。しかも、そのうち8人が女子って……たしか、朝の話では、女子は全部で12人。潮のうち8人連れていったら、俺たち後で刺されないかな?



そんなことを言っているうちに、俺たちのグループのゲームが終わった。お隣ももうすぐ終わりそうなので、ちょっと待つことにした。


ちなみに、ゲームの結果は、こちら。


 羽島悠斗 :286

 浅越涼 :263

 小林綾 :162

 水守美紀 :98

 村井静香 :43



俺はすごく練習したことがあるから分かるけど、浅越もメチャクチャうまい。恐ろしいのは綾だ。こいつ絶対天才だ。


スコアの紙は印字してもしなくてもいい。俺は過去を振り返らない性格なので要らない。綾はゴミが増えるといる理由でもらわないだろう。部屋はすごく汚いくせに。



「羽島くん、スコアの紙もらってもいいかな?」



美紀ちゃんが聞いてきた。100行かなかった悔しさをバネに次回にチャレンジだろうか?



「いいよ。プリントアウトしてもらうね」


「あ、いいの いいのっっ!自分でやるから!ありがとう」



焦る要素があったかな?どうせお隣のグループが終わるのを待つので、スコアの紙をプリントアウトする時間なんていくらでもある。俺はうちのチームとお隣のチームの人数分スポドリを買って差し入れた。


本当は綾に渡したかったのだけれど、彼女だけに渡すわけにはいかない。クラスの子たちへの点数稼ぎと思えば安いもんだ。水分補給もしてほしいし、要らなくても次のバッティングセンターでは待たせるんだし、好きな時に飲めばいいのだ。



「あわわわわ!私なんかが いただいていいんでしょうか⁉」



ネガティブキャラの村井さん面白い。俺の中で定着し始めてきた。今後もうすこし注目しよう。



「きゃー!ありがとう!嬉しい!」



ブラウンセーラー服の鈴木さん。女の子らしい反応。喜ばれると単純に嬉しいな。こういう時は、変に恐縮したり、遠慮されるより一言いって受けて取ってくれた方が、男として助かる。



「大事にするね!!」



すぐ飲んでくれ、土屋さん。この子も地味に面白いな。



「はい、小林さんも」


「ありがとう。ゆう……羽島くん」



いまのは、ちょっと危なかったぞ?



「え? 俺も? 俺は攻略対象じゃないよ?」


「誰がお前を攻略するか!」



もちろん、浅越にも買ってきた。女子だから買ってきたわけじゃないから。

うちとお隣のグループに渡したと思ったところに、美紀ちゃんが帰ってきた。もちろん、彼女にもスポドリを渡した。


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