第6話:神の手によるグループ分け
クラスの連中と週末に複合スポーツ施設に来ている。おうち大好き、ラノベ大好き、マンガ大好きの俺が週末にわざわざこんなところに出かけた理由はただ一つ。相棒の綾をそれとなくサポートしてやることだ。
綾はクラスメイトから襲われるくらいのことを考えているみたいだけど、ここは日本で、俺たちは普通の高校生だ。そう易々と襲われるような場面があってたまるか。要するに、不安な綾の近くにいて早めに帰れるようにそんな雰囲気を作るのが俺の仕事という訳。
スポッチャに入って、猿谷がみんなを先導してくれている。俺たちはただ付いて行き楽しめばいいだけだから、ありがたい。
とりあえず、最初は全員ボウリングをすることになった。なにしろここは、ボウリング、ビリヤード、カラオケ、ダーツ、バッティング、ピッチングなど色々楽しめる。
ちなみに、「ボウリング」は球転がしで、「ボーリング」は穴掘りだ。井戸を掘ったりするのがボーリング。ラノベなどでもちょくちょく間違えているので、俺は気になっていた。ホントにどうでもいい話だけどね。
まあ、それくらいには俺は今日のイベントに興味がなかった。集合が10時の時点で昼に解散というのはないだろうと予測した。途中退室も可能なので、一旦食事をしてまた戻ってくるだろうなぁ。俺の予想では午後2時ごろに終了して、そのあと喫茶店かファストフードで2時間ほど喋って午後4時か5時ごろ解散と睨んでいる。
予想以上に多い人数でクラスの大半が来てしまったので、カラオケとかは5人くらいずつ分かれてになるだろうなぁ。最初のボウリングは5人ずつくらいで5レーンくらい使わないと全員がプレイできない。多分1ゲームくらいで1時間はかかるだろう。そう考えれば、ボウリングを早く終わらせることが、会が早く終わることにつながってくる!
俺の予想通り、ボウリングは5人ごとにレーンが分かれることになった。俺は綾の近くにいないといけないので、猿谷が持ってきたクジに細工をして綾と同じレーンになった。
猿谷のくじを見て、少し引っかかった。
猿谷は、グループ分けのためにアルファベットが書かれた紙を準備してくれていた。その紙は折りたたまれていて、文字は見えない。パッと折りたたまれた紙のくじを見て、
つまり、猿谷が一緒のグループになりたい意中の相手がまずくじを引く。ドットの色とアルファベットの紐づけが分かっているのは、クジを作った猿谷のみ。意中の相手がクジを引いたら、ポケットに入っているであろうそのグループの紙を1枚自分用に確保して、残りをクジの束に入れる。
こんな単純な方法で誰がグループになるかをコントロールできるのだ。
猿谷が「神の手」という訳か。あいつは、あいつの思った通りに意中のヤツと一緒のグループになることができる。
クジの束が比較的多いうちにポケットの隠し持ったクジは混ぜないといけないだろうから、猿谷がクジを引くように促す人物が意中の相手という事だろう。
「じゃあ、グループ分けだよ!みんなクジを引いて!」
猿谷が近づいてきた。たまたまだろうか。いや、そんなわけがない。
「じゃあ、レディーファーストで女子から!じゃあ、小林さん、どうぞ」
あからさまだった。猿谷は綾狙いだろう。「レディーファースト」くらいでやめておけばよかったのに、名前まで指名してしまった。
徐に俺がクジを2枚引いた。
「はい、小林さん」
「ありがとう、羽島くん」
綾が俺からクジを受け取る。
「あ、ああ、羽島、クジは女性からで……」
「悪いね。迷ってたみたいだったから、小林さんに取ってあげてしまった。でも、いいでしょ?中身は見てないし」
「そ、そうだけど……」
猿谷の目が泳いでいる。これはもビンゴだろう。
「ごめんごめん、次から気を付けるよ。このままでいいよね?それとも、男は戻さないと困ることでもあるの?」
「いや、ないよ!いいよ。羽島はそのままそれで」
猿谷は行ってしまった。ただ、俺と綾のクジの色は見たのだろう。そこで、綾から一旦クジを回収すると、引くのを待っているそこらの男子に渡した。
***
それぞれクジを開いてグループごとに集まって行った。猿谷が当然の様に綾の近くに近寄ってきた。綾と俺が持っているクジは緑のドットの「E」グループ。猿谷が持っていた紙は青いドットの「B」グループ。
どういうことかとう言うと、最初に引いてみせた2枚は別のヤツにあげたわけだけど、最初に2枚引いたと見せかけて、実は4枚引いていた。ドットは同じ色の2枚、残り2枚は別の色。猿谷に見えるように引いた2枚は青だった。つまり、それに合わせて猿谷は青のドットのクジを準備してきた。
ところが、それは他のヤツにあげてしまったので、別に引いていた緑を取り出した。だから、猿谷とはグループが違うわけだ。
「な、なな、なんでっ!」
なんでもなにも、そこで表面に分かるように出しちゃダメだろ。ズルしていたことがすぐに分かってしまう。
「どうした?猿谷。誰か意中の相手の一緒のグループになれなかったのか?」
「ち、違う!そんなんじゃない!」
こそこそと逃げて行ってしまった。
異変に気付いたのか、綾が不安そうにこっちを見た。色々説明しても良いことはないので、「大丈夫」という視線だけ送っておいた。
「羽島、Eグループ?俺もだよ!偶然だね」
そう言って、来たのは浅越。「E」と書かれた紙を持っている。こいつ本気ですごいな。五分の一とはいえ、よく綾と同じグループを引き当てたと思う。猿谷が細工をしていたとしても、20枚のクジの中から4枚あるはずのEを引く確率は20%だ。しかも、俺が2枚引いていたので、18枚中の2枚を引き当てる必要があり、確率は11%だ。
浅越って主人公なんじゃないだろうか。引きが強すぎる。
「あ、こっちにおいでよ、水守さん」
「あ、はい」
水守さんも「E」の紙を持っている。絶対なにかやったな。どれを引いたら当たりなんて俺たちがどれを引いたか知っている必要があるのに。言ってみれば、俺と綾はズルして同じグループになった。それが確定する前に、更なるズルをして俺たちと同じグループになったというのか。
普通の確率でこのメンツが集まるとか神様がいるとしたら意地悪すぎるだろ。
このグループの最後の一人は、村井さんという女子。お団子頭で白いブラウス。黒いミニスカートの子だった。普通過ぎて逆に落ち着く。
「え⁉ えっ!? Eグループってここ!? 私もEグループですか!?」
村井さんが「はわわ」とテンパってる。こっちは本当に引いたっぽい。なんとなく、朝 挨拶を交わしたメンバーを中心に集まってしまった。メンバーを改めて確認してみた。
浅越涼
小林綾
水守美紀
村井静香
そして、俺の5人。
「はわわっ、私なんかがいていいんでしょうか!?」
「もちろんだよ。さ、クツかりに行こう」
村井さん、ネガティブぶりが面白い。害が無さそうなメンバーで俺としては安心。村井さんにも声をかけて、クツを借りに行った。
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