第3話:シチューはご飯にかけてもOKか

「昨日、悠斗んちシチューやったやん?」


「うん、それがどうした?」



 綾は今日も普通に俺の部屋でマンガを読んでいる。今日は俺もたまたまマンガの日なので、ベッドは背もたれとして使われている。俺の枕は綾のクッションとして尻のしたに敷かれているんだけど、もはや気にしない。


 ちなみに、俺は高さの違う枕を1個ずつ、合計2個使っているので、俺の尻の下にも枕がクッション代わりに敷かれている。



「思い出の味というか、トラウマというか……」



 ついにうちの食事にクレームをつけ始めたのか。


 小学校の時からうちに入り浸っている綾。放課後は二人とも部活とかないので、部屋で過ごすことが多かった。そのせいか、ゲームやラノベ、マンガの趣味が同じになってしまい、話していても話しやすいヤツが仕上がってしまった。


 俺の部屋は3LDKの一部屋、8畳ほどの部屋。ベッドと勉強机と本棚くらいしかない。あ、ゲーム用に大画面テレビはある、モニターとして。まあ、テレビはほとんど見ないけどね。


 そう、シチューの話!



「マズかった?」


「んーん、悠斗の家のシチューは最高においしい♪」



 満面の笑顔。めちゃくちゃ可愛い。そう、綾は顔立ちが整いすぎているほどに整っていて、とても可愛いのだ。クラスでも人気者。入学から1年ちょっとでクラスの男子の約半分が告白したという無双状態のヤツだ。


 それというのも、クラスでは猫100匹被っているので、お淑やかに見える。綾は緊張すると表情筋が固まるのだけど、それがいい具合に笑顔に見えるので、いつも余裕でニコニコしているように見えるらしい。


 俺から見たら、「あ、テンパってるテンパってる」と思うこともたくさんあるけど、ここまで何とかバレずに来ているからテクニック的なものもあるのかもしれない。


 ただ、(俺の)家では完全にオタクと言っていいだろう。俺からしてみれば、オタクこっちの方が素だと知っているので、学校での綾の方が気持ち悪い。



「じゃあ、そのおいしいシチューがどうした?」


「悠斗の家では、シチューをご飯にかけるやん?」


「え? うん」



 悠斗の家では、と限定するあたり、普通はかけないの?シチューをご飯にかけずにどうやって食べるというのか。



「私も もはや常識なんやけど、悠斗のお母さんは、ご飯とシチュー別のお皿やん」


「たしかに」



 うちの母親は、家族で唯一シチューとご飯を別々に盛る。俺はそれを見てどこか上品とは思っていた。ただ、食べるときはご飯、シチュー共にスプーンで食べているので、いつも一つの皿に盛ればいいのにと思っていた。


 俺と綾のシチューは、最初から1皿でご飯の上にシチューがかけてある。俺の感覚的にはカレーと同じなんだけど。



「あのね、うちでは全員、ご飯とシチューは別のお皿に出てくるの。お父さんとかシチューの日はご飯じゃなくてパンなの」


「マジか!? なんか違うな。まあ、好きに食べたらいいと思うけど」


「そう、そうなんだけど、1年の時 岸田くんとちょっと仲良くなりそうな時があったの」



 岸田と言えば、クラスメイトだけど、ちょっと嫌みな感じのあるヤツ。話していると何とかマウント取ろうとしてくるので、あんまり色々話せないヤツってイメージ。クラスのカーストでも中間くらいかな。


 カースト中間クラスでも綾に告白したり、言い寄ったりしているのを聞くと、こいつの可愛いさが怖くなってくる。



「食堂で何度かお昼を一緒に食べたんだけど、ご飯とシチューを別々に置いて、どっちもスプーンですくって食べてたの」


「学校の場合、ご飯はお茶碗で出るからそうなるな」


「そしたら、シチューとご飯を一緒に食べるのはマナーが悪いとか言われて、途端に食べにくくなっちゃって……」


「ああ、それでトラウマ」


「うん……それ以来、うちでしかシチュー食べなくしてて……昨日は久々だからおいしかったぁ」



 岸田……成仏しろよ。通ぶったのか、博識をひけらかそうとしたのか、とにかく、綾には刺さらなかったらしいぞ。それどころか、軽くトラウマになってるし……岸田の名前なんか最近 綾の口から出てないので、彼氏候補からは完全に外されたのだろう。


 あと、ここでいう「うち」とは、自分ちと俺んちの両方を指しているのだろう。多分、うちでご飯食べて行く回数のほうが多いとは思うけど。


 それにしても「マナー」という名の法。シチューとご飯が別々に出てきたら、シチューはスプーンで食べて、ご飯はお箸で食べないといけないのか!?なんかめちゃくちゃ効率悪い。てか、食べにくい。


世の中の人はどうしているのか。シチューとか家庭料理だから、外で食べる機会なんてあんまりないだろうに。



「私もビーフシチューはご飯にかけないし、言ってることは分かるんやけどさぁ」



 確かに、我が家では同じシチューでも、ビーフシチューはご飯にかけない。



「私 考えたけどさ、スープと捉えるかソースと捉えるかだと思うと」


「どういうこと?」


「私はね、クリームシチューはソースと捉えてる。ビーフシチューはスープと捉えてる」



 ヤバい。俺はそんなこと考えたこともなかった。綾の方が考えているのがちょっと悔しいな。



「あれ?そもそも、スープとソースの違いってなんだ!?」


「私も調べたんやけど、どっちも煮込むもので、明確な違いがなかったんやけど……」


「えー、ソースって さらさらしてるイメージだけど」


「どろどろのソースもあるし。そういうと、スープも どろどろも サラサラもあるやん?」


「あ、そうか」


「スープは具材が入っているって話もあったけど、ソースにも具材が入ってるやつあるし」



綾と一緒にスマホで調べてみても、煮込み時間が違うとか具材が違うとかサイトによって色々書いてある。ただ、共通するものは見つけられなかった。


つまり、人により感覚が違うという事。主観任せ。スープと言えば、スープ。ソースと言えば、ソースって感じか。


俺もビーフシチューをご飯にかけている人がいたとしたら、マナーが悪いとか思うかも。逆に、クリームシチューをスープと認識している人からしたら、俺みたいにご飯にかけて食べてたらマナーは悪く見えるのだろう。


カレーはほとんどの人がソースという認識ではないだろうか。カレーをご飯にかけても誰も何も思わないのはそういう理由だろう。



「具だくさんのスープってなんかないかいな?」


「うーん、豚汁とか?」


「そう!豚汁とかご飯にかけんくない?」


「確かに」



豚汁は、いくら具が多くても俺の中では「スープ」に分類されている。確かに、ご飯に豚汁かけて食べているやつがいたら、ちょっと引くな。まあ、自分の家でやっている分には全然いいだろうけど、定食屋とかで一緒のテーブルだったら、ちょっといやかも。



「結局は、認識の違いか」


そうなんそうなの


「綾は、結局 どうしたいの?」


「私は、1つのお皿にご飯を盛って、上からシチューかけて食べたいかなぁ」



 それ、うちの食文化だから。我が家の常識に染められすぎだろ。第一、自分ちでは別々の皿にご飯とシチューが別々に出てくるんだろうに! もう、完全にそれ、うちの子じゃねーか。



「悠斗は?」


「俺も同じかなぁ」


「あー、真似やん!」



 俺なのか!? 俺が綾の真似をしているのか!? 段々色々自信がなくなってきた。



「ところで、その後、岸田とは?」


「なんか、おいしくご飯 食べられんけん、自然にフェードアウトした」



やっぱり。



「付き合うなら、おいしくご飯食べられる人がいいね」


「常識と言うか文化も近いほうがいいな。それか、話し合って差を埋められる人」


「あーね。外国人とか文化違いまくりやけんね」


「話し合いで何とかなるなら、俺は気にしない」


「悠斗は、シュクメルリはご飯にかける?」


「新しい火種を持ってくんな!」



今日も、どうでもいい会話と、ラノベとマンガとゲームで綾と放課後を過ごしてしまった。

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