第6章 画面の役割を想定するな!

 まだまだ、「③本制作(α)」は続くよ!

ここでも、仕様の話をする。

 ただし、今回のメインは画面の役割についての考え方だ。


 『太鼓の達人』といった音ゲーをプレイしたことのある人ならば、プレイ評価を見ないことはないだろう。


 音ゲーは、音楽に合わせてリズムの目印(=ノーツ)が画面上に表示され、これを特定の場所に来たタイミングで対応するボタンを押し、その正確さに合わせて点数をスコアに加算していき、プレイごとにハイスコアを目指すゲームになる。

 ボタンを押すタイミングは、ぴったりのパーフェクト判定が多ければ最高点を獲得できるのでスコアは伸び、タイミングズレが多ければその分下がる。

さらにミスすることなくノーツを繋げていくとコンボとなり、この数もスコアに関わってくる。

 プレイ評価は先述したようなものを自動でまとめて提示してくれる。

つまるところ、自分の腕前が可視化されるわけだ。


 さてそんなプレイ評価は音ゲー以外にも登場する。

対戦ゲーの『スマッシュブラザーズシリーズ(以下スマブラ)』なら対戦結果のリザルト画面時やアドベンチャーモード等でみるし、RPGの『FF13』なら、戦闘ごとに評価が挟まる。


 例に挙げた作品において、このプレイ評価で分かることは、以下だ。


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▼『太鼓の達人』の場合

良/可/不可の割合やコンボ数、自己ベストを超えたかどうかが分かる。 

 = 得意/不得意の曲かどうか、ノーツの暗記度、自分の状態(不調とか絶好調とか)の可視化


▼『スマブラ』の場合

与えたダメージ、受けたダメージ、地上での移動距離、空中待機時間などが分かる。 

 = 戦法の傾向、得意/不得意のキャラの把握(対戦相手含む)、弱点の可視化


▼『FF13』の場合

目標タイム、戦闘にかかった時間、バトルレート等が分かる。

 = 戦略があっていたか、ドロップアイテムを入手するためのランク上げ対策の可視化


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 何気なく画面を眺めていても、いろいろなことが発見できる。


 音ゲーは特にわかりやすい。自己ベストを超えるため、同じ曲を何百回と遊んだ経験を持っている人は多いはずだ。

『FF13』のように、いい評価を出すといい事が起きる(=リターン)がある場合は、意識してプレイを変えることもあるだろう。

 そのため、プレイ評価はプレイヤーのプレイの方針や目標を建てる際に活用する役割を持っているといえる。


 こういったように、プレイヤーがその画面を見た時に動いて欲しい物語を想定し役割を付与すると、画面の目的が生まれて必要な機能を入れやすくなる。

オプション画面といった、その場で終わるものは、そこで完結できる物語を。

プレイ評価といった、他のものにも大きく関わるものは、続きが分かりやすい物語を。


 ここで小説や戯曲を嗜んでいる人にはなじみ深い技法、「チェーホフの銃」というものを紹介しよう。

以下はウィキペディアからの引用だ。


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チェーホフの銃という表現は、ストーリーに持ち込まれたものは、すべて後段の展開の中で使わなければならず、

そうならないものはそもそも取り上げてはならないのだ、と論じた、アントン・チェーホフ本人の言葉に由来している。


「誰も発砲することを考えもしないのであれば、弾を装填したライフルを舞台上に置いてはいけない。」

アレクサンドル・セメノビッチ・ラザレフ(Aleksandr Semenovich Lazarev)(A・S・グルジンスキ(A. S. Gruzinsky)の変名)に宛てたチェーホフの手紙、1889年11月1日。


「もし、第1幕から壁に拳銃をかけておくのなら、第2幕にはそれが発砲されるべきである。そうでないなら、そこに置いてはいけない。」

1904年に『演劇と芸術』誌に掲載されたイリヤ・グリヤンドの「チェーホフの思い出」。


「もし第1章で、壁にライフルが掛けてあると述べたなら、第2章か第3章で、それは必ず発砲されなければならない。

もし、それが発砲されることがないなら、そのライフルはそこに掛けられるべきではない。」


S・シチューキン『回顧録』(1911年) 

引用元:ウィキペディア

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%9B%E3%83%95%E3%81%AE%E9%8A%83


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 「なんでプレイ評価の話から、チェーホフの銃に飛躍するのだ?」と疑問に思うかもしれない。

 この考え方は画面の役割に活用できるからだ。

特に「誰も発砲することを考えもしないのであれば、弾を装填したライフルを舞台上に置いてはいけない。」のセンテンスが極めて重要だ。

 置き換えると次のような感じになる。

「誰もその画面の役割を見いだせないのであれば、その画面を映してはいけない」


 ピンとこない人向けに、チェーホフの銃にちなんでサスペンスの脚本でたとえてみよう。

 まずは、殺人事件が発生し探偵や刑事がそれを解くというテンプレ的な流れを思い浮かべて欲しい。

 人を殺すために使われるものは何があるか?

ざっくりカテゴライズしてみると、「鋭利なもの(包丁やつらら)」、「鈍器になるもの(トンカチや石、バールのようなもの)」、「ひも状のもの(縄や蔦)」、「近代武器(銃やスタンガン)」、「自らの身体(拳、足による暴行)」になるだろう。

 さて、ここで死体の側に弾丸が落ちてあり、物語の舞台の説明描写内に「拳銃」があり、それが事件現場の家の壁に飾られている場合、君はどう思う?

 拳銃はご存知の通り、殺傷能力の高い武器だ。

描写があれば凶器に使うだろうとマークするのが自然だし、ミスリードの可能性も踏まえつつ何かしらの役割が与えられていると見越すだろう。

 しかし物語をいくら進めても、銃のじの字も出ないし誰も言及しない。我慢して付き合っていれば、いつか誰かがつっこんでくれるのでは…。

 やっと被弾の傷跡のくだりで凶器が銃だとなっても、冒頭の拳銃の言及はもちろんなし。トリックの材料にすら使わない。

 挙句、銃は銃でも冒頭の拳銃ではなく、途中で登場した猟師が持っていた全く別の拳銃が凶器だった。なんだこりゃ。

 使わないなら、なんで描写したんだよ!?

 こういった物語のノイズは消そうぜ、というのがチェーホフの銃だ。


 前に挙げた作品の評価画面は、そこで記述したように、ちゃんと評価の役割が設定されているので、強制的に表示される理由が理解できる。

 もしこの役割を取り上げられた状態で出てきたらどう思うのか?

 何かの区切りごとに画面が表示され、基準が不明な評価を下すが、その後のプレイに一切影響はないと分かったら、誰もがその画面を消し炭にしたくなるはずだ。世界一無駄な5秒になる。

 せめて「loading…」と出るならマシだ。ゲームの続きを読み込んでいるのだから。その間に付き合ってやろうとは思えるだろう。

 アーケードゲームだとしたら、プレイ時間がその分延びてしまう。それが5秒だとしたら12回出しただけで1分のロストだ。

営業時間に縛られるアーケードにとって回転率を考えると画面を消す判断を下すのが賢明であると分かる。


 しかし全てのプレイヤーの記憶が5分でリセットされると思っているのが、クソゲー制作現場の上層部の連中だ。

故に、画面を強制的に映したとしても、それを見たプレイヤーの全ては役割を見出さずにスルーするのが「普通」だと考える。

 恐ろしいことに、そもそもその邪魔な画面を消すとか、せめてボタン表示に移動するという考えもない。そのくせ新たに役割も与えない。

だって雰囲気が大事だからね!

 例えば、RPGにおいてバトル終了後の経験値獲得の演出が全て終わっても、フィールドに戻らず、いちいちキャラクターがわちゃわちゃしてる一枚絵を謎に表示しても、プレイヤーは友好的に捉えてくれると信じている。

見たいのはフィールド画面や。どうでもいい一枚絵じゃねぇ。


 ヒエラルキーの最下層にいる人間には何も出来ないのが世の常だ。

甘んじてその無意味な画面を眺めるという選択をとるのが、ベストである。

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