第5章 仕様の基準を曖昧にし、裁量を全てを一人が掌握しよう!
さて、やっと「③本制作(α)」だ!
ここまでくるのはとても長かったね。
「③本制作(α)」に入ると、仕様書というものを作る必要がある。
仕様書はいうなればゲームの設計図だ。
作成するのはプランナーという役職にいる人間になる。
簡単に説明すると、「Aボタンを押したらパンチ、Bボタンを押したらジャンプ、同時に押した場合は必ずパンチの動作を優先する」というのを、各画面や機能ごとに詳細が書かれた書類になる。
これを元に、プログラマーさんはプログラムをくみ上げ、デザイナーさんはUIや3Dモデル等を作っていく。
もし不備があったり技術的に不可能な部分が出たりした場合は、担当間ですり合わせて内容を随時更新していく。
そのため、この仕様書は基本的に「正しい動きが書かれている」のが前提となる。
そしてデバッグの段階になると、この仕様書通りの動きをするのかをチェックするし、バグかどうかの判別も行う。
さて、この仕様書。決まったフォーマットがないため、会社や人によってバラバラだ。
ただ、見方を統一しておいた方が理解しやすいのは確実なので、ある程度のフォーマットを定めた上で作成していく。
仕様書の作成の流れは下記のようになっている。
/*--------------------*/
1、ディレクターかメインプランナーが大まかな方針を決める。
(※想像しづらい人への補足:次のような説明を各画面に用意する感じです。
メインメニューは主にアイテムやキャラといったゲーム進行に関わる項目へ進むためのターミナルのような役割の画面になる。備考として、セーブやオプションといった進行に関わらないシステム部分の項目はここには入らない。それらはシステムメニューに内包される)
2,1の内容を元にプランナーが詳細を決めて内容を詰める。
(※想像しづらい人への補足:ゲームの公式サイトや攻略本にあるシステム説明を1から作っていくような感じです。次のようなかんじ。
例:メインメニューの概要や役割の説明、画面構成のイメージ図、項目の並び、選択をしたときの挙動(ボタンのアニメや画面遷移の動きなど)、表示するための条件等)
3、ディレクターおよびメインプランナーに確認に出し、修正対応して内容の齟齬をなくす。
4、ディレクターおよびメインプランナーの確認が取れたら、各セクションの担当者とリーダーに内容の共有を行う。
5、各セクションの確認が取れたら、クライアント(依頼人。ここで言うとパブリッシャー側のディレクターとプロデューサー)に共有し、許諾が得られるまで詰める。
作成したプランナーは出さずにディレクターとメインプランナーが定例会議で確認することが多い。
6、クライアントの許諾を得られたら、各セクション(PGさんやDSさんなど)に実装指示を出す。
/*--------------------*/
受け取った方針を元に、どこまで詳細を書くのかは、フォーマットと同じく人によることが多い。
絵や図をモリモリ載せて書く人もいれば、文章のみで済ます人もいる。
重要なのは「読み手を意識すること」と「理解までの時間」だ。
ゲーム制作は常に時間に追われている。
仕様の理解や作成が遅れるほど、PGさんやDSさんの作業時間が消えていくことになる。
ここまで文章を読んでくれた方は、「文字を読むことが苦にならない人」だと思われる。文章の相性はあるにせよ、そこに文字があるなら自然と読んでしまうのではないだろうか?
文字だけの情報で言いたいことを理解できるし、想像もできるのだろう。
しかし、文字を読むというのは時間が掛かってしまうし、脳内でいちいち組み立てるのはかったるい。
早くプログラムの構造を考えたり、デザイン案出しをしたりしたい場合、パッと見て分かるようにまとめてほしいと思うだろう。
仕様書は小説ではない。
そのため自分の文章を誰もがちゃんと読むと信じる幻想を捨てた方がいい。
個人的に気を付けている点は以下だ。
・最初に仕様の目的や、やりたいことといった内容(例:この画面はキャラクターのステータスを確認する画面である、といった大きな概要)を書く。
・必要な情報は、太字や色付きなどを追加して目立たせる。
・説明は3行程度でまとめるか、長文になる場合は区切りが分かるように改行して続ける。
・補足用の図や絵、参考作品があるなら、そのスクショを傍らに載せる。
※ネタではなく本気で言ってます。
そうすれば、例えば読了に2時間かかる小説もコミカライズされた漫画なら30分になるように、絵や図を用いるだけで情報量はそのままに時間を圧縮できるからだ。
ただし、絵や図を作るのはそれなりのスキルを要するので、諸刃の剣にもなるので注意しよう。
不安なら誰かに見てもらうか、図の近くに「分からなかったら指摘ください」みたいなメモを添えよう。
仕様書は(会社によるが)Excelで作られることが多い。
関数やリンクの多様、テキストボックスや画像の数によっては処理負荷がかかる。
その結果ファイルを開くまで5分かかるとか、操作がカクつくとか、本末転倒にならないように多用しすぎは注意しよう。
仕様の説明に必要な情報の取捨選択は、社内の先人の残したものもそうだが、攻略本がとても参考になる。
有名な攻略本の「アルティマニア」シリーズは読み物としても面白いので、1冊買っておいて損はない。
電子書籍でも出ているが、紙版をおすすめする。
攻略本以外なら、今は亡き取扱説明書を見てみよう。3DSやVita時代の途中まではあった(はず…)。
何故あえて紙の書籍なのかというと、ネットにある攻略サイトだと「項目へのリンク」や「動画による説明」といった便利なものがあるからだ。
静止画による説明となると、紙媒体が適しているため、ここではアナログ的な手法を参考にする方向とした。
さて、攻略本の話だ。
ゲームソフトを所持している人向けの本ということは、初歩的な説明をしなくてもいいはずだが、必ずといっていいほどゲームの概要がのっている。
作品の説明、世界観の特徴、バトルといったシステムの特徴、魔法や武器の生成、仲間キャラはどう加入していくのか等。
こうした基礎情報を載せることで、未所持のソフトだとしてもゲーム全体のおおまかな内容を理解することができるため、その後に各項目の詳細に移っても振り落とされることがない。
しかも各項目の前に上記の説明を更に詳しくした前置きを置いてくれる。
データベースで構成されている場合は、表の見方を付けてくれる。
人は何故攻略本を手に取るのか?
一番の理由は「ゲームの分からない所を解決するため」だろう。
だから、分かりやすい文章と図を徹底しているわけだ。
攻略本は仕様書を元に作られているものもあるし、何よりプロのライターによってゲームの仕組みを理解させるための文章と図が並んでいる書籍だと考えると、これ以上ない大事なものだとご理解頂けると思う。
さて、内容の他にも重要なのは、裁量をどこまで与えるかになる。
内容にどこまで口を出させ、決定を任せる範囲はどのくらいか?
プランナーはいうなればディレクターとメインプランナーの下っ端で、ヒエラルキーの最下層にいる存在だ。
そのため内容を勝手に決めて進めることは出来ない。
手綱を握るディレクターとメインプランナーがある程度自由を許し、意見が合致するならば一緒にクライアントと戦ってくれるタイプなら、最高の現場だと言っていい。マジで。
意見が一致せずとも、「何故違うのか、何故この意見が優先されるのか」と理論立てて諭す人なら、プランナーの思考方法も統一させることが出来るだろう。
君がやるべきことはこれだ。「裁量の与え方をトップダウン形式で進める」こと!
こうすることで大半のプランナーを指示待ちロボットにすることが出来るぞ。
なおトップの指示に反抗するものは勝手に辞めていくので放っておいてOKだ。
トップダウンの意味は辞書で検索すると下記。
企業経営などで、組織の上層部が意思決定をし、その実行を下部組織に指示する管理方式。
(Weblio 辞書 掲載の デジタル大辞泉より引用。大辞泉は小学館発行)
一見すると意思統一が出来るからいいと思うかもしれない。上層部にいるならばね。
奴らに明確なビジョンがあり、意思決定も素早く、迷うことがない現場なら、まだマシだろう。
まずいのは”私の中の正解を見つけよ、正解は私も分からぬ、かと言って気に入らない意見は通さぬ、裁量は全て我にあり”という人間が上層部にいることだ。
それぞれを分解してどういうことかを説明しよう。
クソゲーを作りたいなら、これを守ることをおすすめする。
/*--------------------*/
■私の中の正解を見つけよ、正解は私も分からぬ
この手のタイプは「いい感じに」「良きように」「直感的に」「印象的に」「普通で」という言葉を好んで使うが、不思議なことに定義づけることがない。
そう、主観でしか物事を語らないのだ。そのため、隠された部分を可視化するとこうなる。
「(俺の思う)いい感じに」、「(俺の思う)良きように」、「(俺の思う)直感的に」、「(俺の思う)印象的に」、「(俺の思う)普通で」。
なお「お任せします」や「フィーリングを大事に」も同類になる。
ちなみに定義づけをしろと依頼しても無駄だ。
何故なら、上層部の人間の定義は1週間に1度更新されるためだ。残念なことに記憶を保てないのだ、たとえ議事録があっても。
そのため、ちゃぶ台返しを平気でする。上層部がルールブックだからね。しょうがないね。
しかも、「ゲームを良くするため」という大義名分を掲げるので、謝ることは絶対にない。
もう謝ったら死ぬ生き物だと考えるしかない。
正直、この辺の思考メカニズムは未だにわらかない。誰か教えてほしい。
そして自分の中に正解がないので、そのモヤモヤを他人に解決させようとする。
「お弁当を作ろう」という命題さえあれば、言葉が足りなくても理想のお弁当箱が出てくると思っている輩が多い。
本屋さんで「昨日の〇〇ちゃんが出てた番組で紹介されたアレ出して」と言っておいて、出さないと怒る人がヒエラルキーのトップと考えると、おぞましさが分かると思う。
「第2章テレパス以外お断り!」のりんごの絵を描くところでも言ったが、「お弁当」を定義しないと泥沼化するのは、火を見るよりも明らかだ。
かといってこういうタイプに対して、正解を探ろうと根ほり葉ほりカウンセリングしようとすると怒る。
それが君の仕事だろ、自分で考えろ、責任をなすりつけるなと。
正解以外通さないのに、論理的説明もしないし、どうないせぇっちゅうんじゃ、マジで…。
おかげで大嫌いだった数学が大好きになったよ!
…途中から愚痴になってしまった。ごめんさい。
自分で考えることが苦になった所で、大半のプランナーは意見を放棄し、とにかく上層部の言う言葉や指示だけに従うようになる。
場合によっては、上層部が参考用に出したゲームの構造をそのままコピペするようになる。
そして何故この構造になるのかを深く考えない。
仕様の内容もそのまま「アイテムの項目を選択すると、アイテム画面に遷移します」しか書かない。
グレーアウトになる条件の記載とか、項目はどう増えていくのかとか、例外の有無とか一切ない。「そこを考えるのはPGやDSでしょ」とか「元のゲームを見ればいいんだから、そこまで細かくなくていいでしょ」とか本気で言ってくる。
そのため、プレイヤーからすると「何故こんな意味不明な機能入れたの?」と疑問に思うようなものが出てくるのだ。
大ヒットアプリやゲームの二番煎じ系のものの大半がパッとしないのは、大体こういった事情が重なっているのだと思う。
作った人、そこまで考えてないと思うよ…ってやつですね。
ちなみに、この手の人間は設定にも細かく口を出すぞ!
出現するモンスターの設定とか、宝箱の位置とか、細かい理由を添えていちいち抗議しないと変えられないんだ。
逆に向こうが変える場合は一切理由を言わないよ。つっこむとキレるよ。
そして面倒臭がらずに抗議して変えた場合、「あいつは責任転嫁をする」とキレる。
「全部言う通りにするぜ、言えよ、てめぇはどうしたいのかをよォ」と聞いてもキレる。そして言わない。
君に胃が2つあるなら、1つは壊死してるんじゃないかな。
/*--------------------*/
■かと言って気に入らない意見は通さぬ
大事なものが外れていたのでお詫びします。それは、「通さない根拠言わないし、代替案も出さない」です。
”私の中の正解を見つけよ、正解は私も分からぬが、かと言って気に入らない意見は通さぬ、さらにいうと通さない根拠は言わないし、代替案もださぬ、が裁量は全て我にあり”
やべぇな…。
議論をする上で大事な事は、「提唱した意見に対する根拠」だ。
仮定やたとえ話を交えてもいい。とにかく、論理的に説明をすること。
本当に、せめて根拠は言えよ…。それだけでも方向性が見えるんだからよ…。
気を取り直して「お弁当箱に入れるもの」というテーマで考えてみよう。
このお弁当箱は、小学5年生の女の子のためのもので、遠足に持っていく予定だ。
サイズは横16cm×縦11cm×奥6cmで、形状は長方形。1段弁当だ。
ターゲットの女の子の最近のブームは、NHK教育でやっている海外の子供向けドラマ。
アニメや漫画よりも、ファッション誌を欲しがるようになってきた。
女の子はの好物は肉類、とくに唐揚げが大好物だ。
しかし、体重を気にしているらしく、近頃は苦手だった野菜も少しは食べるようになってきた。
ちなみにクライアント(依頼する人)は女の子の両親だが、エンドユーザー(実際に使ったり消費する人のこと)は間違いなく女の子だ。
女の子の両親は和風中心で、食卓は大抵白米とみそ汁と魚が並んでいる。唐揚げやハンバーグは月に1回、パエリアやパスタは半年に2回あるかないかだ。
さあ、どんなものを用意すればいいだろうか?
僕は上の情報からこう考えた。
遠足ということは、仲のいい子と一緒に食べるだろうし、中身を見せ合うこともあるだろう。
ということは、おかずの交換会もありそうだ。それならばピックでまとめれば、個別に対応ができる。見栄えもいい。
海外ドラマを嗜んでいるみたいだし、和風よりも洋風にした方が喜ばれそうだ。
サンドイッチなら、具によって色味も鮮やかに出来るし、バリエーションを増やせる。
野菜が苦手のようだが、食べる気は少しはあるようだ。ならば肉巻きにすればより手をつけやすいだろう。
サンドイッチだけだと足りないスタミナもカバーできる。
ファッション誌が欲しいということは、見た目が気になるお年頃なのだろう。
歯に青のりみたいな食べかすが付くものは避け、トマトといった汁が飛ぶ危険性のあるものは、刺す可能性を減らすためにピックで刺そう。
唐揚げが大好物なら、やはり入れた方がいい。好物があるだけで気分が晴れるし、午後の原動力になる。
しかし手に持っても汚れないようなものがいい。これだけのために箸を持たせるのは面倒だろう。
こうして、僕は「たまごのサンドイッチ」、「ハムとレタスのサンドイッチ」、「ナスの肉巻きロールと鶉の卵をピックで刺したもの」、「ミニトマトの肉巻きロールをピックで刺したもの」、「チューリップ状の唐揚げ」をチョイスした。
懸念としてはお弁当箱に詰める時に収まるかだが、それぞれの分量や形を調整すれば実現できるだろう。
あとは電子レンジの有無だ。あるなら唐揚げ以外のほとんどは時間が短縮できる。
なければ調理時間は10分ほど伸びる見込みだ。
君はどうだろうか。
まさか理由もなく、「お弁当箱の半分にふりかけを振った白米」、「おかずは定番の卵焼き」、「好物だから唐揚げ」、「余ったスペースはミニトマトと蒸かしたニンジンとジャガイモとブロッコリー」といった結論を出していないよね?
何故それをチョイスしたのかと聞かれた際に、ちゃんと根拠が言えるならいい。
例えば「白米を選んだ理由は、夕方まで腹がもつようにするため」みたいなね。
もし、その根拠が「コンビニのお弁当がそうだから」なら、まず設定された文章を読んで理解しろ。
「俺の弁当がそうだったから」だとかなり悲惨だ。君の主観はいらないんだよ。
更に言うと、「両親が和食を作るから」だと救えない。
クライアントの両親を気にして、エンドユーザーである女の子を一切見ていない(もちろん見すぎもマズイけど)。
そんな弁当に女の子は食いつくのか?
さて、この手のタイプは、僕の意見は一切通さないだろう。気が合えば、一部は取り入れてくれるかも。
主観で見る生き物を相手にしているのだから、理由は分かるよね。
この生き物の思考は「俺の弁当がそうだったから」に近い。なおデベロッパーの場合は「両親が喜ぶかどうか」だ。
そして根拠の補強は「コンビニのお弁当がそうだから」で行う。
勿論、何故コンビニのお弁当はそのおかずを選んだのかの研究も考察も一切しないよ!
故に、いくらちゃんとした根拠があっても、理屈が成立していても、この手の輩は「俺(およびクライアント)が気に入るかどうか」という主観で判断する。
そして気に入らなければ、「方向性が違うと思うんですよね、なので別案を考えてください」といって蹴散らす。
方向性の定義は勿論しない。
参考作品を出してくることはあるが、向こうから案を出すことは一切ない。
出したとしても、何故かパスタを入れようと言ってくる。どこからきたんだ、パスタ。
何故ですかと問えば、何かしらベラベラ話すこともあるが、結局は「俺(およびクライアント)が気に入るかどうか」、そして「コンビニのお弁当がそうだから」に落ち着く。
なのでいくら説得しても無駄だ。思考を放棄し、傀儡になった方が楽だ。
こうして意見の屍の山が築かれていくのだ。
これでお弁当の中身は決まった。
「ふりかけを振った白米」、「卵焼き」、「唐揚げ」、「ミニトマトと蒸かしたニンジンとジャガイモとブロッコリー」、「パスタ」を入れる。
情熱的な君は抗議するかもしれない。
「せめてふりかけは使うとしても、シャケとか歯にくっ付かないものにしようよ。女の子は見た目を気にしてるようだし、もし歯にノリがついた状態が写真に残ったら…」
どんな返答が来るか、もちろん分かっているよね。
そう! 「俺は気にしない」
女の子のためを考えるのが間違いなのだ。
どんな結果が待っていようと、クライアントを喜ばせるのが正解だ。
/*--------------------*/
■裁量は全て我にあり
これは非常に分かりやすい。
”企業経営などで、組織の上層部が意思決定をし、その実行を下部組織に指示する管理方式”を、そのまま体現すればいい。
「私の中の正解を見つけよ、正解は私も分からぬ」と内容はほぼ同じだ。
だから、全てを決定しコントロール下に置きたがり、裁量を1つも手放さない。
もちろん、論理的説明は一切なしだ。素晴らしいことに、自分のコピーを作れると信じている。
いつか君の机の引き出しから、ドラえもんがやってくるといいね。
ここで趣向を変えて、僕のテンションを維持するためだけの目的でショートストーリーを書いてみた。
うまく伝わると嬉しいな。
/*--------------------*/
君は赤い車でドライブをしている。
助手席には人間が1人。二人旅だ。
目的地は海だが、運路は決めず自由で行こうと走り出した。
さて、走り始めこそ談笑していたが、1時間くらい経った頃、君は困った状態になってしまった。
車の助手席に座っている人間が、常に運転手である君の操作を指示してくるのだ。
目的地、高速道路に乗るタイミング、パーキングエリアに止まるタイミング、車線変更のタイミング、全てに口を出してくる。
しまいには、運路のチョイスが悪いとけなし、やれクッションが固いやら、日差し避けが薄すぎるやら、車の色がダサいやら、もうなんでもかんでも言ってくる。
理由を尋ねるが答えず、分からない君がおかしいとなじる。
気分次第で目的地はコロコロと変わる。もうどこに向かっているのかも分からない。
しかし君は「そこまで文句を言うなら、君が運転しなよ。君の車なのだから」と殴りつけたい気持ちを抑えて付き合う。
何故なら、車は助手席の人間が所有しているものだからだ。
君がロボットだったら疲弊することはないだろう。しかし、君は人間だ。
擦り減った心はもう痛みすら感じない。残念なことに、最初はあった車への親しみもなくなってきた。
風景からは色が消え、暗闇が君の車にまとわりつく。ライトで照らすと道が見える。しかしこれは、本当に道なのか?
説明しがたい何かの上を走っている気がしてくる。
助手席の人間は、あともう少しで目的地に着くぞとはしゃいでいる。
だから頑張れ。もうひと踏ん張りだぞと。しかし相変わらず、君の操作には口出しをする。
ここで君は気づく。助手席の人間は、自動運転システムがないから、しょうがなく君を運転席においているのだと。
自動運転システムなら、いちいち指示をする必要はないが、君はそれじゃない。
君の考えと、助手席の人間の考えは違う。生き物だから当たり前だ。しかし、それを助手席の人間は許せない。
それに助手席の人間は、自分が原因ではないにせよ事故が起きたら責任を取るリスクを持っている。
だから、事故が起きないように、常に監視をしていたのだ。その決断は、出発して1時間後に下された。
助手席の人間は、もう君にハンドルを任せた途端に車は大破するとしか思えなくなってしまった。
でも考えてみてくれ、1時間は任せたんだ。それで十分だろ?
目的地についた。目の前に広がるのは岩山だ。
助手席の人間は何故か怒り出した。海を目指していたのに、なんで岩山なんだと。何故引き返そうと言わなかったと。
運転席を見ると、ロボットが座っていた。
/*--------------------*/
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