第9話氷のウサギ
うだるような暑さの中、優子の葬儀が執り行われた。
友人、以前の職場の方々、参列者は思ったより多かった。
1ヶ月内に二度も葬儀があるとは。
病院で倒れた後、点滴を流し疲れから解放されたが、心は重かった。
出棺際、進一は冷たくなった優子にキスをした。
それから、数週間が過ぎた。
拓也の生命保険金と、免責事由をクリアした優子の保険金が入った。十分に横領した金額を越えていた。働いて返済し続け今800万円残っていたので、橋社長に現金で一括で返済した。
「中森君、ここ辞めないよね?」
「……はい。橋社長は恩人です。この会社に骨を埋める気持ちです」
「そうか。次の役員会議で君の役職を常務に抜擢したいのだが。どうかな?」
「じ、常務ですか……橋社長に付いていきます」
「そうか、頼むぞ、中森君。君は忙しい方が気が紛れていいと思ってね」
中森は涙ながらに、橋社長に何度も何度も頭を下げた。
「中森君、今日はお昼までで上がっていいぞ。しばらくは、心を落ち着かせる為に色々考えているから」
「ありがとうございます」
また、橋ももらい泣きした。
駅前の広場の前で、缶ビールを飲んでいた。
氷像をなにやら、女性が氷の塊を削りながら作っている姿を見付けた。
2本目の缶ビールを飲みながら、じっとみているとウサギの氷像を完成させた。
氷のウサギ
進一はふと、拓也のウサギのぬいぐるみを思い出した。
優子が選んだぬいぐるみだった。
じわりと涙が湧いてきた。
だが、自分も新しい生き方をしなければならない。
優子と拓也の分まで生きよう。2人は心の中では、いつまでも生きているのだ。
そう考えると、何だか力がみなぎる。
進一は3本目の缶ビールを手に取った。
終わり
氷のウサギ 羽弦トリス @September-0919
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