第7話息子の死

それは、平日水曜日の夜だった。

優子の携帯電話が夜中の2時に鳴る。病院からだ。

急いで、進一の運転で拓也が入院する大学病院へ向かった。

道中、2人はしゃべらなかった。

医師が2人に説明した。

「拓也君は合併症を引き起こしました。最善は尽くしますが、万が一の事も考えていてください」

2人は手を握りあった。

拓也は両腕に点滴をしていた。

あわただしく、スタッフが動き出す。

「頑張れ!拓也!パパとママはここにいるぞ、頑張れ!」

進一は声を掛ける。

優子は涙を浮かべている。強い女なので泣きじゃくりはしない。


午前、5時38分。拓也は天に逝ってしまった。

僕は骨と皮だけの小さな手のひらを握り、優子は頭を撫でていた。

お見舞いの帰りに、手を振っていた拓也の顔が目に浮かぶ。

まだ、拓也の手のひらは温かい。

点滴も、酸素マスクも、外されている。

進一は屋上まで上り、タバコを吸った。

そして、一人泣きじゃくった。大粒の涙をはらはらと流し、拓也に謝った。

健康な体を作れなかった責任と土日しか会いに行けなかった事を。


葬儀には、小学校関係者、進一の働く橋エンジニアリングの社長と社員、親類。

出棺歳、最後の別れの時、優子は拓也がいつも手にしていた、ウサギのぬいぐるみを入れてやった。

霊柩車はクラクションを長めに押すと、火葬場に向かった。

夕方、お骨になった我が子を持ち、仏壇に置いた。2人とも憔悴しょうすいしきっている。

親類は明日も来るからと言い、帰っていった。すると、突然優子が進一に抱き付き今まで我慢していた涙をせきを切ったように流した。嗚咽する優子の背中を進一は擦っている。

2人の宝物は失われたのである。

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