第5話合併症

進一と優子は深夜、拓也が入院している大学病院に車を走らせていた。

道中、2人は一言も喋らなかった。病院に到着すると、拓也は酸素マスクをしていた。

医師から説明があった。

「拓也君は肺炎を起こしました。幸い重い肺炎ではありませんが、白血病のお子さんの肺炎は甘く見てはいけませんから、ご両親を呼びました。今は落ち着いています」

2人は静かに医師の説明を聞いた。

進一は信じられなかった。日中、あれだけ元気だったというのに。

拓也は無菌室にいる。

頭を撫でてやることも、今夜は難しそうだ。


医師の説明を聞いた2人は、ロビーで缶コーヒーを飲んだ。

治療費が半端なく、貯蓄も半分残ってるかどうか。

息子は病気と闘っている。

親も闘わなくてはいけない。進一は優子の手を握った。


月曜日、いつもの様に1人で残業していると、会社のお金を自分の口座に振り込んだ。100万円。大丈夫。バレない。

『拓也、頑張れ!パパも頑張るから!』

進一はそう自分に言い聞かし、帰宅した。

優子がハンバーグを作ってくれた。

「今日は拓也としゃべったわよ」

「何か言ってた?」

「早く帰りたいって、言い続けていたわよ」

「そうか。だいぶ回復したね」

「……うん」

「飯食ったら、早く寝よう。いつ、また呼び出されるか分からないから、今日から21時就寝。優子は皿洗いして、僕は洗濯物干すから。終わったら寝よう」

「うん」

進一はベッドに横になると、すぐに眠りについた。

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