第5話

 他人が怖くて怖くて仕方がありません。打ち明けた時に引かれるのではないか、関係が終わるのではと。


 私自身は一体化を望むのに、恥の意識がそのようにさしてくれない。その葛藤が、私を煩わせるのです。


 本音で話すことが怖いのです。会話の途中に、あなたを噛んでいいですか? と聞かれたらどう思います?


 いきなりどうしたと思うでしょう。気持ち悪いと引くでしょう。でも私は聞きたくなる、言いたくなる。


 ふいにそういった感情が現れます。ぐっと抑えますが、たまに出てくるのです。どんなに抑えてもたまに。


 それで何度も失敗してきました。噛んでいいですかと質問したことはさすがにありませんが、言いそうに。


 失敗を想起して苦しみます。次はやらないようにと。でもまたやりそうになる。考えれば、考えるほどに。


 そうやって恥を重ねるごとに、他人を恐れ、行動できなくなりました。何回も後悔し、懺悔ばかりを。


 この苦しみから解放されるためにも、一体化したいのかもしれません。綺麗な履歴書へと上書きをしたい。


 私という存在自体を無くして。新しく、そして美しい私になりたいのかもしれない。そのための同物同治。


 全部の不調を治すために体や心ごと取り入れたい。そして私の履歴は綺麗さっぱり。でも、できるわけが。

 

 食べたいけど、食べてしまっては、目の前から無くなります。そうわかっているからこそできないのです。


 実際に、食べ尽くしては意味がない。相手が居続けるからこそ、接種し続けられる。私だけになるなんて。


 一度の接種では、束の間の変身が可能であるだけで、元の私へと段々戻っていきます。それはまた苦しい。


 元の私へ戻る過程を体験するなんて、どれほど残酷なことか。それに相手もいなくなる。つらいつらい。


 それに食べ尽くしたところで、自己暗示でしかないことも理解しています。頭では、わかっているんです。


 でも、一体化したい。恥なんて忘れてしまえばいい。葛藤に打ち勝てばいいのです。実際に勝っています。


 こうやって文章を書いているように、公開してしまえばいいのです。それこそ後悔する前に、更改すれば。

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