第4話

 あなたへの未練はまだ断ち切れてませんが、これ以上は進みません。今は他者を求めるゾンビです。


 あなた以外の他者を求め彷徨っています。私は今、通りを歩く人に齧り付く寸前なのかもしれません。


 綺麗な首筋を見ると、唾液が溢れてきます。瞳孔がぐわっと開く感覚を、私は体感してしまうのです。


 この人に齧り付いたら、どんな反応をするか。周りの人がどんな目で私を見るか想像してしまいます。


 その想像が頭によぎった時、私の頭の中に苦い汁が溢れてきます。葛藤の狭間へと転落してしまいます。


 周りの目が、私を止めてくれます。でも、それすら快感になるかもしれないと考えて、悩んで、悩んで。


 誰か他の人を愛して、その人になら、してもいいんじゃないかとも考えて。でも良くない気もしながら。


 せめぎ合った欲望と理性の狭間で、もがき苦しむのです。その悩みが絶えず、私は途方に暮れています。


 噛み心地はどうなんだろうかと。最初噛んだ時の柔らかさと、噛まれた後の筋肉が硬直した時の歯応え。


 その違いを私は知りたくなる。とくに首はそれは顕著だと思います。痛みに叫んだ時の首筋の緊張感。


 叫び声の大きさで噛みごたえが変わるなんて、なんと面白いことだと思いませんか? 私は興味津々です。


 それも一体化したい相手となればなおのこと。血肉を取り込んみたい。でも、その相手にいてほしい。


 いっそのこと、両者で齧り付き合って互いに接種し合うのもいいかもしれません。貪り合う感じです。


 互いが互いの首を噛み合って、血を吸い合う。危険ではありますがなんと幸せそうな光景でしょうか。


 順番で身体中を噛み合って歯形をつけていきましょう。相手の顔を見ながら、緩急をつけて楽しんで。


 血が出たところはヒルのように吸って鉄分を補給。脂肪と筋肉の違いを噛み比べてみたりしましょう。


 我慢対決なんかもして、じゃれ合いながら楽しみたい。そんな体験をしてみたいと思い書き続けます。


 結局、私はゾンビなんです。他者に飢えています。一人が怖いのです。でも、他人も同じく怖いのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る