夏休み

三日後、結斗との待ち合わせの映画館に来ていた。


「陸」


「結斗」


繋いだ手から、温もりが伝わる。


この日は、映画を見た。


「よかったね」


「うん」


俺達は、手を繋いで歩く。


「今日は、俺んち、誰もいないから」


俺は、結斗を家に連れてきた。


「ジュースかお茶持ってくる?」


「いらないよ」


結斗は、俺を求めてくれた。


嬉しかった。


俺も、それに答えた。


その後も、デートを重ね、肌を重ね、キスを重ね、夏休みは後5日で終わろうとしていた。


「結斗、愛してる」


この日は、結斗の家族がいなくて結斗の家に泊まった。


「こないだの写真」


現像された写真を見て、笑い合った。


「また、撮ろうか」


「うん」


俺達は、写真を撮り合った。


「キスしてるの撮ろうよ」


「いいね」


結斗が、現像するって思ってたから何枚もキスをしてる写真を撮った。


「愛してるよ、結斗」


「僕も、愛してるよ。陸」


重なりあった肌の温もり、結斗の息が熱をもつ、抱き締めてくれる力、唇の感触、舌の感触、手の感触。


俺は、この日を一生、忘れないよ。結斗



5日後の、8月31日ー


この日は、また映画館で待ち合わせをしていた。


【……中学校二年。五木結斗さん(14歳)が亡くなりました。強姦暴行された痕も見つかっています。警察の調べによりますと、逮捕された少年は、結斗さんが自分を裏切った事が許せなかったと話したようです。少年は、結斗さんを何度も刺した後に川に投げ捨てました。発見された時には、まだ息があり病院で手当てを受けていましたが、本日死亡が確認されました。】


朝の8時、牛乳を立って飲んでいた俺は、母親がつけていたニュースに固まった。


パリン…


「陸、どうした?あんた、泣いて」


「えっ?」


胸が苦しくなって、息が出来なくなった。


「はっ、はっ、はっ」


「どないしたの?大丈夫」


母さんは、割れたコップの破片をそのままに俺を椅子に座らした。


「ゆっくり息吸って、吐いて」


母さんに言われて、俺は、やっていた。


「行かなきゃ」


「どこに?」


「ごめん、母さん」


パジャマのまま、スリッパもバラバラで、俺は、結斗の家にやってきた。


ついた瞬間、雨が降りだした。


ザアー、ザアー



ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン


「はい」


「あの、あの、あの、」


「あー。上條君だね」


そう言って、扉が開かれた。


「まだ、病院から帰ってきてなくて」


「あの」


「入って」


「あの」


「死んだよ」


お父さんのその言葉に、心がギリギリと握りつぶされた。


「ぁぁぁあああああああ。わぁぁぁぁあああががぁかな」


「大丈夫、大丈夫か」


「ずびばせん」


「結斗の彼氏だったんだろ?」


お父さんの言葉に顔をあげた。


「あの子が、そうなのは私も妻も妹も知っているよ。それに対して、咎めたりもしなかった。好きなように生きればいいと思っていたから…。これ、結斗の日記とカメラ。上條君にあげる」


「これ、何でですか?」


「この日記はね、結斗が上條君と出会った時からの日記だったからね。中を少し見たけど。ごめんね」


「いつ、いつ、死んだんですか?」


「昨日、夜帰ってこなかったから…。電話がきて、昨日やられてね。顔とか見ない方がいいよ。結斗を忘れないであげて。」


「見ます。俺は、この目に結斗を焼きつけます。」


その言葉に、お父さんは凄く泣いた。


俺は、いつの間にか冷静だった。


結斗は、三時間程して帰ってきた。


お父さんが、話したように全身が誰かわからなかった。


体を葬儀屋さんが、拭いてるのを見つめていた。


真っ白じゃなくて、傷だらけで痣だらけだった。


顔も、結斗じゃなかった。


「棺桶は、開かないで欲しいです。身内以外には、見せたくないです。」


俺は、勝手に流れてくる涙をとめる事が出来なかった。


「上條君、見ない方がよかっただろ?」


俺は、首を横にふった。


葬儀屋さんが帰った後、俺は、ご両親と妹さんの前で言った。


「お父さん、お母さん、妹さん、俺に結斗を見せていただきありがとうございます。愛した人の最後の姿は、とても綺麗過ぎて涙がとめられません。どうか、結斗を最後に抱き締めさせてもらうことを許してもらえますか?」


「構わないよ」


「どうぞ」


俺は、三人の前で結斗をきつく抱き締めた。


今日、会う約束をしていた。


腫れ上がった顔。


冷たい体。


固い手。


それでも、結斗は綺麗だった。


「キスしたら、怒りますか?」


俺の言葉に、ご両親が笑った。


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