惹かれた想い

私は、桂木さんの【助けて】をあの日と同じように受け取った。


それから、退院までの間。


休みの日以外は、毎日桂木さんと話した。


不思議な事に、桂木さんと過ごす時間は楽しくてあっという間だった。


こんなに笑ったのは、久しぶりだった。


こんなに、誰かといたいと思ったのは久しぶりだった。


上條にも、最近いい顔をしていると言われた。


明日で、退院の日を迎えた。


私も、朝で終わりだった。


私は、拒まれる覚悟で桂木さんに通帳を渡した。


桂木さんは、最初は色々言っていたが受け入れてくれた。


次の日、私は朝一で医者の仕事を終えた。


「お疲れさまでした。」


たくさんの花束を貰った。


「一ノ瀬君、頑張ってくれ」


院長先生に、握手をされた。


「一ノ瀬、また会おう。仕事は、関係無しだ。」


「ああ、上條。」


「頑張れよ。」


上條は、そう言って去っていった。


私は、服を着替えた。


桂木さんの病室に来ていた。


「はあ?意味わかんないんだけど」


蕪木さんが、怒っていた。


「先生」


「これを預かっていてくれるか?」


私は、花束を桂木さんの机の上に置いた。


「初めまして、一ノ瀬です。お金を振り込ませていただきたいので、銀行にいきませんか?」


「はあ?意味わかんないんだけど。」


「私と桂木さんは、これから住むことになりましたので」


「丈助、オメーいつからオカマになったんだよ」


「桂木さんは、関係ありません。私が、お願いしただけです」


「テメー、ふざけんなよ」


「警察呼びますか?それとも、銀行に行きますか?」


「わかったよ」


蕪木さんは、おとなしく銀行についてきた。


私は、蕪木さんの口座にお金をうつしてもらった。


「これからは、桂木さんに関わらないでもらえますか?」


「気持ちわりいやつだな、あんた。わかったよ」


私の事を睨み付けて、去っていった。


私は、病院に戻った。


病室で、桂木さんは退院準備をしていた。


「先生、お金貸してもらってもいいですか?お会計できたみたいで」


「構いませんよ」


私は、桂木さんとロビーにおりた。


お会計を払って、退院した。


「筋力低下しました。」


「そうでしょうね」


「散歩してたんですけどね」


「足りないですよね」


私は、桂木さんを家に入れた。


「お邪魔します。」


「まだ、途中までで片付けすみません」


「先生、ありがとう」


「もう先生は、やめてください。一ノ瀬倫いちのせりんです。」


「俺は、桂木丈助かつらぎじょうすけです。」


「なんてお呼びしましょうか?」


「死んだ彼女には、ジョーって呼ばれてました。先生は?」


「私は、倫って呼ばれてました。じゃあ、ジョーって呼びますね」


「じゃあ、俺も倫で。」


照れくさかった。


私は、お花をキッチンで花瓶にさす。


「死ぬつもりでした。蕪木の約束を守ったら、すぐにでも。」


「そうですか」


「それしか、逃げる方法がみつからないと思ったから。なのに、倫が助けてくれるなんて思わなかった。」


「ジョー、私と一緒に生きていこう。どんな事があっても、傍にいるから」


「もう、先生はする気ないのか?」


「はい、するつもりはありません。」


「勿体ないな。こんなに、丁寧なのにさ」


ジョーは、お腹の傷痕を私に見せた。


「私は、愛する彼女を救えなかった日から医者ではなくなりました。救いたい気持ちよりも、死んだらどうしようという気持ちがかってしまったんです。そう思うほどに、手術が出来なくなっていきました。ジョーを治療出来たのは、奇跡でした。久しぶりに、救いたいと思ったんです。だから、ジョーを助ける事が出来た」


「倫、いつかまた医者になりたくなった時は迷わずやってくれよ。俺は、応援するから」


ジョーは、私の手を両手で強く握りしめた。


私は、ジョーとのこの出会いをこの先もずっとずっと忘れないだろう


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