熱い告白

ガラガラ


病室から出ると、上條がいた。


「お熱い告白だな。」


「聞こえていたのか?」


「朝の話は、一ノ瀬の話しだったのか?」


「違うよ」


「桂木さんだっけ?」


「ああ」


「桂木さん、退院したら死ぬんだろうな」


「何で、そう思う?」


私は、上條に尋ねていた。


「俺は、自殺した人間を見た事がある。桂木さんの目も、よく似ている。目の奥底に光がともっていない感じがする。まあ、興味がなくても…。最後の患者さんだ。向き合ってあげればいいんじゃないか?」


「上條も、あの人にそうしたのか?」


「今でも続いてるよ。写真見る?財布にあるんだ。今さっき、財布とってきたからさ」


「ああ」


上條は、写真を見せてきた。


「元気そうだな」


「そうだろ!」


「私なりに向き合ってみるよ」


「そうしな。じゃあ、昼御飯買いに行くわ」


「ああ」


私は、上條と別れた。


どうするべきだろうか?


目の奥がか…。


私は、コーヒーを買った。


好きになるのに、時間なんて関係ない。


病院に勤めているとそんな事わかる。


余命いくばくもない患者さんが、看護士さんに告白するのを見た事もある。


上條が、告白をされていたのも見たことがある。


私だって、女性の患者さんに気持ちを告げられた事もある。


最後の恋だと知っている人もいる。


結婚をしていても、告白している人を見た事もある。


最後くらい好きにしたっていいと私は思っていた。


でも、桂木さんは最後ではない。


手術は、無事成功したし、1ヶ月もあれば退院できる。


また、人生をやり直せるわけだ。


なのに、どこか寂しそうな顔をしていた。


蕪木さん、友達は確かに横暴な人間だったと思う。


桂木さんは、この街からもいなくなりたいと言った。


はぁー。


どうするべきか、さっぱりわからなかった。


「ほらよ」


コーヒーだけを持ってる私に、上條がパンをくれた。


「焼きそばパンか?」


「たまに、食べたくなるだろ?」


「そうかもな」


「一ノ瀬、頭で考えたって何もなんねーぞ。」


「そうかもな」


「俺、昔。一目惚れしてさー。そん時に男が好きってわかったんだけどさ。結局は、その人と居たいか居たくないかなんじゃないか?」


「ありがとう、上條」


「まあ、あんまり深く考えずにさ。楽しかったら、もうちょっと居てみよぐらいな気持ちでな」


「うん」


「じゃあな」


上條は、そう言ってもどっていった。


俺は、上條と別れて焼きそばパンを噛っていた。


桂木さんともう少しお喋りをしよう。


それで、私は私の気持ちを探してみよう。


私は、桂木さんの気持ちがわかったんだ。


彼女の自殺した話を聞いて…。


愛する人を失った悲しみや痛みは理解できた。


桂木さんは、まだ彼女を愛してるのもわかっていた。


私が、彼女を愛しているように…


業務が終わり、私は私服に着替えた。


コンコン


「はい」


ココアを持って桂木さんの所にやってきた。


「こんばんは、はいどうぞ」


「ありがとうございます」


桂木さんは、不思議そうな顔をする。


「どうしました?」


「先生は、もう来ないと思っていました」


「どうしてですか?」


「昼間の件と個室、襲われるかもしれませんから」


「そんな事を、桂木さんがするとは思いません」


「二回しか会ってないのに、よく信用できますね」


「これでも、人を見る目はあると思ってますよ」


私は、桂木さんに笑った。


「そう言われたら、何か嬉しいです」


目の奥に光がともってない…


今、気づいた。


上條が言ったように、桂木さんは笑っているのに、奥底には闇がある気がする。


「退院したら、どうするんですか?桂木さんは?」


「あっ、えっと。蕪木が、借金を返してくれたようなので…。暫くは、蕪木の奴隷です。それから、解放されたらどこか遠い街に行きたいですね」


そう言って、桂木さんはココアを開けた。


「甘いけど、癒されますね」


その笑顔は、とても寂しそうだった。


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