奴隷が、お似合い
朝御飯を食べ終わった頃に、蕪木は俺の前にやってきた。
「はぁー」
ため息をついたのをバレないようにした。
「桂木さん、体温」
看護士さんが、体温計を渡して私の食器を下げてくれた。
「桂木、よっ」
「ああ、おはよう」
朝から、蕪木の顔を見たくなかった。
「で、返事はどうなった?今日、借金返してやるからさ」
「出来ない」
昨日、先生に逃げようと言われた俺は、何故か突然先生と暮らす未来を想像した。
あの後、テレビを見ずにずっと先生との日々を想像した。
「はぁ?出来ないって何だよ。テメーは、俺の奴隷なんだよ。わかるか?」
「散々楽しんだだろう?余生は、おとなしくしとくべきじゃないか?」
ピピピ
体温計が鳴った。
「ふざけんな、テメー。殺されたいのか?」
「離せ、祥介が、これを仕向けた事ぐらい。俺にだってわかってる」
「何言ってんだ?お前の人生なんて俺の掌で転がっとけばいいんだよ。わかるか?」
看護士さんが、やってきた。
「他の患者さんのご迷惑になりますので、もう少し静かにしていただけますか?」
「これ、体温計です。」
「はい」
「はい、はい」
そう言いながら、蕪木は怒っていた。
「で、どうなったんだよ?」
「出来ない」
「ふざけんなよ、テメー」
堂々巡りの言い合いをとめたのは、俺の担当の先生だった。
俺は、個室に行かされた。
「はあー。」
コンコン
「はい」
「桂木さん、大丈夫ですか?」
「先生、なんかすみません。」
「いえ、こちらとしても朝から大声を出されるのは困ります。」
「はい、そうですよね」
「あの人が、蕪木さんですか?」
「はい」
先生は、俺をジッーと見つめていた。
「先生」
「何でしょうか?」
「昨日の話しは、まだ有効ですか?」
「昨日の話しとは?」
「俺と一緒に逃げてくれる話ですよ」
「あ、あれは、冗談ですよ」
立ち去ろうとする先生の腕をとっさに掴んでいた。
「すみません」
「何でしょうか?」
「先生は、俺と同じだと思っただけです。気にしないで下さい。」
俺は、先生から手を離した。
「桂木さんの退院は、私がこの病院を去る日と同じです。最後まで、よろしくお願いします。」
「先生」
「何でしょうか?」
「日にちや期間なんて関係ありません。俺は、昨日から先生で頭がいっぱいです。逃げたい。先生と一緒に、この街から…蕪木祥介から逃げたい。蕪木の奴隷でいる生活は嫌なんです。だけど、借金もある。先生に迷惑をかけれない。すみません、忘れて下さい」
「失礼します」
ガラガラ
先生は、出て行ってしまった。
死ぬと思った人間の恋のスピードは、異常な程早いな。
「ハハハ、無理に決まってんだろ?俺は、おっさんだ。」
先生は、小綺麗な人だ。
俳優さんにでもいそうな感じだ。
俺は、ザおっさんだ。
並んだら、周りがひくレベルだ。
あんな小綺麗な人が、俺みたいなおっさんに興味なんかあるわけがない。
逃げようと、綺麗な指先で手を握られて期待してるんじゃないよ。
俺には、蕪木の奴隷がお似合いだ。
ガラガラ
「ほらよ、借用書」
暫くして、蕪木がやってきた。
「借金、返してくれたのか。それは、どうも」
「で、退院したら早速、
「わかった」
「丈助も、たまってんだろ?これ、褒美にやるからさ」
「誰だ?」
「
「必要ない。いるなら、プロがいる」
「プロなんか寂しいだけだぞ。まあ、いいや。んじゃ、よろしく。奴隷くん」
蕪木の中に、俺への罪悪感はない。
俺は、財布から写真を取り出した。
「すまなかった。必ず、そっちに行くから…。退院して、すぐにでも行くよ。俺は、お前を愛してる。今でも、ずっと…。だから、すぐ行くから。」
俺は、写真を握りしめながら泣いていた。
退院まで、残り30日だ。
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