鮮紅が煌々と2

「ねーこれ見てよ! ちょー可愛くない?」


 高校の友達から向けられたスマホに映っていたのはピアスだった。


「うん。可愛い。買ったの?」

「それが迷ってるんだよね。欲しいけど、他にも欲しいのあるし」

「じゃあアタシも可愛いの見せたげる――ほら」


 そう言って彼女が見せてきたのは蜘蛛の写真。


「うわっ! あぁー! もう止めてって言ってんじゃん。無理なんだってそれ」

「ちょっとー! それって言わないでよ! ちゃんとスピちゃんって名前があるんだから」


 彼女は家で蜘蛛を飼ってる。前は幼虫からカブトムシを育ててたっけ。


「もうほんとにアンタの趣味悪すぎだって」

「人の趣味を悪いとは失礼な。アタシはただそんなアクセサリー云々よりこういうのが好きなの。ちなみに次は蛇とか買いたいなって」

「分からん! もうアンタが分からんよ。ねぇ?」


 最後は共感を求めるように私の方へ顔が向いた。


「んー。でもまぁ、趣味は人それぞれだし。いいんじゃない」

「よく言った! 今度スピちゃんを手に乗せさせてあげる」

「イヤ……。それはいいかな。ちょっと怖いし」

「えー。可愛いって」


 人にはそれぞれ趣味がある。別に望んでそれを好きになった訳じゃなくても、心惹かれてしまうような事がある。


「そう言えばアンタってこう趣味! っていうのないよね?」

「うーん。まぁそうだね」

「ったくダメだよー? 趣味のひとつやふたつ持たないと。息抜き出来ないじゃん。ねぇ」

「そうそう。何か見つけなよ。色々試してさ」

「まぁそうだね」


 人にはそれぞれ趣味がある。

 別に人様に迷惑を掛けなければ、どんな趣味でも持っていいと私は思う。そう、人様に迷惑を掛けなければ……。


 実は、私には二人に隠している趣味が一つある。


「おぉ~。すっごぉ」


 滴り、流れ、飛沫として。夜中一人で見ていた画面へそれが映る度に、上がる興奮を抑えた声。

 私の声と共に映されたそれは――血。血液。血汐。生血。鮮血。真っ赤な血だった。

 スプラッター映画。それが私の秘密の趣味。いや、そうじゃない。スプラッター映画はただの手段。本当に私が秘密にしている趣味は、血だ。

 そのシーンが始まると画面にはそこらかしこにある。大量の血。それが私は好きなのだ。大量に血が噴き出すシーンは特に。

 でも私はそれを画面越しに見るだけ。その温かさ、肌触り、匂い。それは分からない。いや、分からなくていい(分かるという事はそこには同じように大量の血があるって事だから)。

 だけどそれを想像し僅かながら恍惚として、興奮する自分が毎回そこにはいる。その興奮が、恋愛的なモノなのか性的なモノなのか、何なのかは分からない。でもそれを感じている時はまるで心から愛してる人に抱き締められているかのように心地好い(そんな経験無いからただの想像だけど)。それは思わずベッドに寝転がり甘い溜息を零してしまう程に心地好い。

 これが私の絶対に誰にも言えない秘密の趣味。今後、言う事も無い趣味だ。

 人様に迷惑を掛けなければ、どんな趣味でも持っていい。この狂気に満ちたこの趣味を持ってもいいんだ。決して人様に迷惑を掛けないのであれば。自分の中だけで留めておけるのならば。


「大丈夫。これは私だけの秘密」

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