第11話
「ああ、必ず帰ってくるさ。だから……」
「うん……」
「待っていてくれ……」
「分かった……」
「……愛している。心から……ずっと……永遠に……!」
「私も……大好き……!いつまでも貴方のことを……!」
そして……二人は永遠の眠りについた。
「くそっ!間に合わなかったか……!」
「嘘でしょ?ねえ!起きて!目を開けて!お父さん!」
そこには悲しみに包まれた親子の姿が残されていた。
「一体どうなっているんだ……?」
「分からないわ……私が来た時には既にこの状況になっていたから」
俺達が到着するとすぐに二人の安否を確認してみたが、既に事切れた後だった。そのことから恐らくだが巨大魔獣との戦いが原因なのではないかと思う。
ただ、それだけでは何故このような状況になっているのか分からなかったため、俺はエアリスちゃんに詳しい話を聞かせてもらうことにした。
「教えて欲しいんだけど、戦いが始まった時から今までの間に何があったのかを教えてくれないかな」
「……分かった」
エアリスちゃんの話によると、巨大魔獣との戦闘が開始された直後に突然男性の叫び声が聞こえてきたらしい。そのため、エアリスちゃんは急いで父親のもとへ向かったのだが、到着した時点では既に父親は虫の息の状態であり、このまま放っておけば確実に命を落とす状態だった。
しかし、そこに巨大魔獣が現れ、男性は襲われそうになったため、彼女は必死になって抵抗した。その結果、何とかその場を凌ぐことはできたのだが、その際に負った傷が原因で意識を失ってしまったようだ。
それからしばらくして意識を取り戻したが、その直後に男性が苦しみ始め、やがて大量出血によって亡くなってしまったのだという。
「そういうことだったんだね……」
「うん……。それにしてもあの人があんなに苦しんでいた理由が分かれば、もっと早く助けられたかもしれないのに……」
「そうだね……。もし、その原因さえ分かっていれば対策を練ることだって出来たのにね……」
ただの疲労なのか……あるいは別の原因があるのか……いずれにしても調べようがない以上、今は悔やんでも仕方がないだろう。
それよりも今後のことを話し合わなければならないな。まずは……ギルドに連絡を入れておくべきかな。この事態を報告しないことには何も始まらないし。そう思い、俺は皆に声をかけることにした。
「まずは街に戻ってこのことを報告しよう。それから今後について話し合いたいと思っているけど……良いかな?」
俺が確認を取ると、三人共同意してくれたので、早速戻ることにして移動を開始した。
ちなみに、ルシードさんとルミエールさんについては、既に連絡を入れているため問題はないとのことだ。まあ、あの様子だとかなり心配しているだろうからな……。後で謝っておかないと……。
そうしてしばらく歩いていると、俺はあることを思い出して二人に話しかけた。
「そういえば、森に入ってからずっと気になっていたことがあるんですけど……」
「ん?何だい?」
「どうして森の奥の方に向かって歩いていたんですか?」
「それは……その……ちょっと迷子になっていて……」
「え?」
「いやー、実は僕達森の中で迷子になっちゃっていたんだよ」
「いやいや、そんな訳ないでしょう!?」
「そうなんだけど……でも、本当のことなんだよね……」
「どういうことですか?」
「森に入って少ししたら急に強い風が吹いて、視界が悪くなったと思ったらいつの間にか道を見失っていてさ。それで気づいたらこんなところに来ちゃったんだよね……」
……おい、それ完全に俺と同じ状況じゃないか。というか、俺の場合は元々の道順を覚えていたから戻ってこれただけで、この人達はそんなことも覚えていなかったということだろうか……。それは流石に酷過ぎないか……?
「はぁ……分かりました。とりあえず、ここから出る方法を探しましょう」
「う、うん!」
「ありがとう!助かるよ!」
「いえ……」
こうして俺達は無事に出口を見つけることが出来たのであった。
「ふう……ようやく外に出れたな……」
「ああ……まさかこんなにも時間が掛かるとは思わなかったよ」
「本当ですね……」
俺達は巨大魔獣と戦った場所から離れるように歩き続け、どうにか森から脱出することに成功した。
ただ、予想以上に時間を食ってしまったせいか、既に日が落ちかけていた。そこで今日はここで野宿することに決め、準備に取り掛かろうとしたその時だった。
「あれは馬車か……?」
遠くの方に複数の人影が見える。しかもかなりのスピードが出ているようで、こちらに迫ってきているようだ。すると、突然馬に乗った一人の男が声をかけてきた。
「そこの冒険者!乗れ!早く!」
「冒険者の方!お願いします!」
どうする?正直に言うとあまり関わりたくないが……しかし、この状況を考えると乗るしかなさそうだ。
「皆さん、乗りますか?」
俺の言葉に全員が首を縦に振ったため、俺達は急いで馬車に乗ることにした。
「全員乗車しました!」
「よし、飛ばすぞ!捕まっていろよ!」
そう言って男は鞭を振るって馬をさらに加速させた。その結果、あっという間に距離が縮まり、俺達の目に飛び込んできたのは大きな建物だった。
そしてそのまま俺達が降りる間もなく建物の中に入り、扉の前で止まった。そして、すぐに男の人が顔を出してきた。
「お前らはこっちだ。他の奴等は付いてこい」
「わ、分かった」
その言葉に従っている最中、後ろを振り返ると先程の馬車はすでに消えており、恐らく別の場所に移動したのであろうことが分かった。
そして、連れていかれた先には見慣れた人物の姿があった。
「ギルドマスター?」
「おお、やっと戻ってきたのか……」
「すみません、ご迷惑をおかけしてしまいまして……」
「いや、無事に戻ってきてくれたなら構わないさ。それにしても……一体どうなっているんだ?巨大魔獣に襲われたという話だったが……」
「はい。実は……」
俺は巨大魔獣と遭遇してからの経緯を話始めた。
「なるほど……。そういうことだったんだな。……それにしても災難だったな……」
「全くです……。でも、なんとか逃げ延びることが出来て本当に良かったですよ……」
「ああ、確かにそうだな……。しかし、あの辺りは滅多に人が通らないから大丈夫だと踏んでいたんだが……もしかしたら調査が必要かもしれないな……」
「そうかもしれませんね。まあ……とにかく今回のことは報告させていただきます。それで……ギルドに報告した方が良いと思うんですが、今からギルドに向かうことって出来ますかね?」
「ん?それくらい別に構わんが……何かあったのか?」
「えっと……その……色々ありまして……」
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