正義のかけらはどこにもない

佐々木 煤

三題噺 「北」「氷山」「正義のかけら」

僕はとっても臆病だから、正義のかけらを手に入れるために旅に出た。正義のかけらとは、ずっと北の氷山に一輪だけ咲く金色の花。手に入れたらきっと、僕は家族も村のみんなも助けることができるはずだ。

村を出て、歩いていると森の小人の集落に出た。

「旅人さん、どこへ行くんですか?」

「北の氷山へ、正義のかけらを取りに行くんです。」

「そうか、北へ行くにはもっと暖かい格好で行かないと。村に来る化け物を倒してくれたらマフラーとマントを差し上げます。」

村で化け物を待ってると、大きな黒猫が現れた。小人は恐れていたが僕はなんともなかったのでカバンの中に入れた。

「ほんとに倒してくれるなんて!急いで大きなマフラーとマントをこしらえます! 」

小人は数日かけて僕にピッタリのマフラーとマントを作ってくれた。黒猫は僕のカバンが気に入ったようで中に入れて一緒に旅に出ることにした。

集落へ出てずっと行くと海に出た。氷山へ行くには船に乗らなければ行けない。港にいる船人に乗せて貰えないかと頼んだが、断られてしまった。どうしようかと岩場に座っているとカバンから猫が出てきてしまった。

「君、その猫は君の猫か?」

「はい」

「もしよかったら、猫を貰えないか?船守りの猫が病気になってしまってね。次の出港までに代わりの猫を探しているだ」

「一緒に旅をしているので、僕も船に乗せてくれるのなら構いません」

猫も了承した様子でにゃんと鳴いた。

船は氷山まで行く船だった。港を離れてどんどん北へ進んでいく。寒いけど、小人のくれたマフラーのおかげでちっとも体は冷えなかった。

「ここが北の氷山だ。船は半日かけて戻って来るから、君はここで正義のかけら探しをしていなさい」

船から下ろしてもらって、正義のかけらを探す。一面の銀世界には金色の花はどこにも見当たらない。しばらく歩いていると、ちょうど人が入れるような丸い穴が空いていた。

「もし、もし、人の子ですか?」

穴の中からか細い声がした。

「はい、確かに僕は人の子です」

「もし、もし、正義のかけらをお探しですか?」

「はい、どうしても正義のかけらが必要なのです」

「もし、もし、どうして必要なのですか?」

「僕の村が疫病にやられてしまったのです。僕は臆病なので、看病もせずに村を出てしまいました。正義のかけらがあれば、ちゃんと村に戻ってみんなに会えると考えたんです」

「もし、もし、ならばこの穴に入りなさい。穴の深くに花は咲いています」

穴の中はそこが見えないほど暗かった。けれど、手に入れられるのならば潜ってみるしかない。勇気を出して入ってみる。どこまでもどこまでも落ちていく。どれだけ落ちたかわからない。少し眠くなってしまった

「あれ、あの子はまだ戻ってきてないのか。」

船人は仕事を終えてかけて北の氷山まで戻ってきた。

「正義のかけらって怪談、まだ信じてる子がいたんだな。最後には悪魔に騙されて死ぬってやつ。」

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正義のかけらはどこにもない 佐々木 煤 @sususasa15

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