第14話 オッサン、すごく良い物を貰う
「では、ユイが好きな色のこの花でお守りを作りましょう」
「あー! ちょっと待った! お守りって髪飾りじゃなくて首飾りでも良いんだろ? 俺、そっちの方がいいなあ……」
「髪飾りの方がお似合いだと思いますが」
「俺、そそっかしいから、髪飾りだとなくしそうで……」
「では首飾りで。……まあ、髪飾りは予備に作っておきましょう」
ウキウキと白い花の選別を始めたムジカの隣で、俺は髪飾りの当座の着用を阻止できた事にホッと息を吐く。
しかしお守りと言うが、どんな効果があるんだろう。
交通安全や安産祈願みたいな縁起物なのか?
「エルフのお守りは花に魔力を流して、持ち主の居場所を探す為のものですよ」
俺の疑問にムジカはそう答えてくれた。
「GPSか!?」
「じーぴーえす?」
「それを持ってるヒトの居場所を知ることが出来るシステム——ええと、仕組みのことだよ」
「ユイの世界にもそんなものがあるんですね!」
ムジカが感心したように目を輝かせた。
たまに語る俺の元いた世界の話に、彼はすぐ食い付いてくる。
こちらの異世界の文化には俺も興味津々だから、ムジカの気持ちはよく分かるぞ。
「私たちのお守りは、自分が魔力を注いだ物が、今どこにあるか大雑把に分かるという仕組みです」
「あ、だから俺がスコラと遅くなった時、ミィナが迎えに来たのか」
俺の言葉に頷き、ムジカが微笑む。
「おそらくスコラの髪飾りはミィナが作った物でしょうね」
「そっか、そっか。じゃあムジカがお守りを作ってくれて、俺がそれを身に付けてる限り、君には俺の居場所が分かるということか」
「そういう事です」
ムジカが俺に遠出の許可を与えてくれた理由が、ようやく分かった。
エルフ特製のお守り——と言うより見守りGPSもどきがあれば、俺の居場所がムジカには分かるわけだ。
確かにこれなら俺もムジカも安心だ。
「花に魔力を注いで、加工しますので、完成まで少し時間がかかります」
「うん、楽しみに待ってるよ」
「話は終わったか? 少し邪魔するよ。ムジカ、ユイ」
ひょいとドアを開け、唐突にラヴァンドが現れた。
「ラヴァンド!?」
「ムジカ、何かラヴァンドさんと約束してたのか?」
「いや、用があるのはユイの方だ。それと、私はただの付き添いだ」
ラヴァンドはそう言うと、彼の後ろにいた老エルフを俺たちの前に押し出した。
長い白髪と長く白い髭、そして右の義足………一度見たら忘れられない、その特徴的なエルフの名を俺は覚えていた。
「レヴリ爺さん」
俺は彼を一方的に知ってるし、爺さんの方だって、この森唯一のヒトである俺のことは知っているだろう。
ただ、一度も言葉を交わしたことはない。
その彼が何の用があって俺に会いに来たんだろう?
「やる」
何の前置きも無く、レヴリは俺に弓を突き出した。
「いいん……ですか?」
その弓は、この森のエルフにとって大人になった大切な証だ。
それをここに来て間もないヒト族の俺が、貰ってしまって良いんだろうか。
「貰っておけ、ユイ。爺さんがユイに渡したいからって、私に付き添いを頼んだんだ」
「そうですよ、ユイ。レヴリ爺さんがヒトに弓を与えるなんて、滅多にない事なんですから、ここは貰っておきましょう!」
ラヴァンドとムジカに後押しされ、俺はおずおずと弓に手を伸ばした。
本音を言うと、あの宴の夜からすごくこの弓が欲しかった。
俺は弓に触れる直前でレヴリに、念の為確認を取ることにした。
「本当に、俺が貰ってしまっていいんですね?」
「ああ、その為に作った」
弓が押し付けられ、自然と俺が受け取る形になる。
ラヴァンドの弓とは僅かに違う。
すごくしっくりと手に馴染むそれは、本当に俺専用に作ってくれたのだと分かった。
「ありがとうございます! でも、俺にはこれに見合うような、大したお礼が出来なくて申し訳ないです……」
「礼など貰うつもりはない」
レヴリはキッパリ言い切ると、ジッと俺を見た。
いや、視力が弱いせいか俺を見ているようで、その視線は背後にいるムジカに向けている。
「いいか、それは本物だ。絶対手放すな」
爺さんはそれだけ言うと、来た時同様さっさと家を出て行った。
ラヴァンドが慌てて跡を追いながら、
「そういうことだ。悪いな、急に来て。また今度その弓で歌を聴かせてくれよ、ユイ」
「はい!」
俺は喜んで快諾する。
この世界に来て、人前で歌う事が楽しくなっていた俺に、否やなどあろうはずがない。
ラヴァンドとレヴリが去り、家の中には再び俺とムジカの二人きりになる。
俺はふと、爺さんの去り際の言葉が気になった。
「コレが『本物』ってことは、レヴリ爺さんの弓の偽物が出回ってるってことか?」
ムジカは顔を顰めて首肯する。
「エルフお手製の弓は、ヒト族の間では高値で売買されます。嘆かわしいことですが、そのせいで偽物も市場に出回っているようです」
「成程な」
これだけ良い品なんだ。
偽物が出るのは悩ましいが、誰もが欲しがる気持ちは良く分かる。
「でも、これで明日っから弾き語り三昧出来るな! 俺、調子に乗って歌いまくるかもしれないから、うるさかったら言ってくれよ、ムジカ」
「私はあなたの歌が大好きなので、大丈夫ですよ。ユイ」
そんな女神のような顔で微笑まれたら、本当に俺は歌いまくって近所迷惑になってしまいそうだ。
出来るだけ自重しようと、密かに心に誓った。
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