第12話 オッサン、はじめてのプレゼント2
「でも、この工房に入れてくれたって事は、俺にも何か手伝わせてくれるんだろ?」
俺は改めて、ムジカに薬の工房だと紹介された室内を見る。
薬というと、現代日本では工場で作られているイメージだが、異世界ではそんな物はない。
この部屋は工場というより、学校の理科室を俺に思い出させた。
「薬はどんなふうに作るんだ? すり鉢が置いてあるって事は、何か加工したりするんだろ?」
「そのまま使用して効果のある物は、加工せず生薬として提供します。そうでない物は精製しますが、その過程で魔法を使ったりもしますよ」
「魔法!?」
そういえば俺の怪我を治癒魔法で治したと言ってたな。
「ムジカは治癒魔法の他にどんな魔法が使えるんだ? 俺の世界には魔力も魔法も存在しなかったんだ。出来れば見せてもらいたいんだけど……」
「お安い御用です」
ニコリと微笑うと、ムジカはビーカーのようなガラスの容器の上に手を翳す。
一瞬、室内の温度が下がった気がした。
カランッ
「どうぞ」とムジカが容器を俺の手に渡す。
何もなかった筈の容器の中に一塊の氷が入っていた。
「すごいな! こんな一瞬で氷を生み出せるのか!!」
「こんなことも出来ます」
ムジカは俺から容器を取り返すと、氷が入ったままのそれを上に掲げる。
ボシュッ!!
炎が一瞬容器から噴き上がり、消えたと思った時には、中にあった氷はどこにもなかった。
それだけ強い火力だったということか。
「すごい、すごい!! 魔法って本当にあるんだな! エルフはみんな魔法を使えるのか?」
「はい。でも得手不得手はあります。私はこの程度ですが、ラヴァンドならここ一帯を燃やし尽くす程の炎を出せるでしょう」
「そ、そうなのか……」
ニコニコしながら怖い事を言うなあ……。
「あれ? でもムジカが治癒魔法を使えるのなら、薬を作る必要はないんじゃないか?」
「私が常に病人、怪我人の元に行けるとも限りませんから」
「あー、確かに。族長なら忙しいもんな。じゃあここで作るのは常備薬か」
「ええ。あと、ヒト族の貨幣が必要になった時に、彼ら用の薬を作ったりします」
「ヒト族の街でムジカが一人で薬を売るのか?」
「はい。エルフの薬は良く効くと評判ですよ」
「そうじゃなくて、昔攫われかけたって、この前ラヴァンドさんが言ってただろ? 君一人でだいじょう」
「大丈夫です。あの時は初めてのヒトの街で、私自身浮かれて油断していましたが、今は悪人共に遅れは取りません!」
被せ気味に断言された。傍目にはおっとりした美人に見えるけど、彼は意外と気が強い。
そうでなくては族長など務まらないんだろうけど。
………しかし薬の精製で魔法必須なら、俺の手伝える事も限られてくるな。
「じゃあ、ムジカ。必要な薬草の種類を教えてくれよ。薬草を摘んでくるくらいなら、俺にも出来るから」
「ええ。そうしてくれると助かります」
「それから、スコラの事なんだけど」
「? スコラが何か?」
「そろそろ俺のお守りから解放してやった方が良いんじゃないかな?」
「ユイ!! あなたは一人で森の中を歩き回るつもりですか!?」
過保護にも程がある。
そして美人がキレると凄みが増す。俺は半歩ほど後ろに引いてしまった。
「だって、ここ数日俺に付きっきりだったろ? スコラの友達は俺だけじゃないんだし、他の子とも遊ばないと、スコラにとっても良くないぞ?」
実際、俺を案内中、スコラの友達が声をかけてくる事が何度もあった。
その度スコラは友達より俺を優先するので、心苦しい事この上ない。
彼の友達は「じゃあユイも一緒に遊ぼうよ」と誘ってくれたが、ヒト族のオッサンとエルフ族の子どもでは身体能力が違い過ぎた。
一回だけ彼らと駆けっこをしてみたが、「よーいどん」の後にもう俺の目では彼らの姿が見えなくなっていた。
エルフの子達たちの本気の遊びに付き合ったら俺の命が危ういと、この時学んだ。
そのような理由を滔々と語ったら、さすがのムジカも渋々だが理解してくれたようだ。
「……分かりました。ただ家から遠く離れた所へ一人で行くのは少し待ってください。用意する物がありますので」
何の用意か分からないが、これでやっと一人での自由行動を許されそうだ。
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