2日目ー1

6時ごろに目を覚ました僕たちは、谷川さんの所へ突貫しに行こうとする優斗を、

何とか7時まで押さえつけるという、非常に疲れる一日の始まりだった。


「ところで、朝食はいつ頃召し上がりますか~」

この騒動の一部始終を見ていた管理人さんにそう聞かれ、僕と燐は、8時と答えた。


「あぁ、疲れた~」

とそこへ、谷川さんのもとへ質問という名の尋問に言っていた優斗がやってきた。


優斗の質問する勢いがすごすぎて、大の大人である谷川さんが、少々おびえていたというのは、質問するのに一生懸命で気づいていなかった優斗には内緒だ。


「何かわかったんか?」

と、燐が聞いた


「いーや、何もわからなかったよ」

優斗はあっけらかんとそういった。


「驚いたな、優斗が何もわからなかったのに不機嫌にならなかったなんて」

あまりに珍しい事なので、僕は、思ったことをつい声に出してしまった。


「道意琉くん君が僕のことをどう思っているのか、話し合う必要がありそうだね」

優斗は、額に青筋を浮かべそういった。


と、その時部屋の扉が開き、くだんのカメラマン谷川駆が入ってきた。


「あ、いたいた。優斗君一枚だけだけど写真が見つかったよ。とった時刻は、君が言っていた24時よりも早いけれどね」


「本当ですか!」

優斗が写真に勢いよく飛びつき眺め始めた。


僕たちも横から覗き込むようにして写真を見た。

そこには何とも不思議な光景が映し出されていた。

写真の主役はシカなのだろう。正面に走るシカが映っていた。

しかし、今僕たちが目を奪われているのはそこではなくそのシカの後ろから迫る

光だった。その光はまるで熊のような大型の動物の目のように見えた。


「優斗、この光は何かわかるかい?」

僕が聞くと、


「いや、まだ僕にもはっきりとはわからない、しかし、これは5年前の事件の真相を    暴く第一歩になると、確信している」

と、自信ありげにそういった。


彼は、僕たちの中でこういう事に一番精通している、彼がそう言うのならまだ放っておこうと思い、谷川さんに質問した。


「谷川さん、この写真を撮った時周りにクマのような大型の獣はいなかったんですよね?」


「あぁ、そのように記憶している。僕もその光を見たときクマかと思ってすぐその場から離れたんだが、その写真を見るとわかる通り、光は2つじゃなくて1つなんだよねぇ」

と、不思議そうにしていた。


「みなさ~ん。お取込み中のところ悪いですけれど、朝食の支度が出来ました~」

と言って管理人さんがやってきた。



ひとまず朝食の時間となり、朝食をとっていると

谷川さんに


「君たち良ければ、僕の仕事についてくる気はないかい?」

と聞かれた。


僕が、答えようと口を開こうとしたが、開く前に


「ぜひ、同行させてください!!」

と、優斗が答えていた。


「おい、優斗勝手に答えたらあかんやろ」

燐が少し切れ気味のように言ったが、彼はこの口調が割とスタンダードなのを

知っているため優斗はどこ吹く風という感じであった。


***


「谷川さんはなぜこの仕事をしようと思ったんですか?」

優斗が気になったのか谷川さんにそう聞いていた。

写真を撮るためにシカを待っているときのことである。


「そうだね~。もともと僕は、中堅企業で普通のサラリーマンをやっていたんだ。

 だけどある日友人につられていった。写真展で、動物が映っている写真に目を奪われてね。自然に生きる動物のありのままの姿を肌で感じたいと思ったから、っていう

まぁ、割とありふれた内容だよ」


谷川さんはそう笑っていった。


「すごいやろ、自分が思ったことを行動に移すことができる人なんてなかなかおらんからな」

燐が珍しく褒める。


そんな燐の言葉に谷川さんは照れ臭そうに笑った。


「あ、ほらあそこ動いてるよ。シカでも来るんじゃない?」

相変わらず好奇心旺盛な優斗がそう言った。


優斗の言った方向を見ると確かに茂みが動いている音が聞こえる。

森の中は昼なのにもかかわらず薄暗いが、何か生き物がいることは確かだった。


ガッサッと音がして現れたのは、一匹のシカだった。

しかし、そのシカは僕たちの方を見向きもしないで走り去っていった。

まるで、


「なんだ?」

燐がいぶかしげに言った。


優斗の方を見ると鋭いまなざしをシカが飛び出した方へ向けていた。


「優斗?ダイジョブか?」

優斗の様子を見て燐がそう聞いた。


すると、優斗は自身の口に人差し指を当てた。

しゃべるなという事だろう。

何かあるのかと思い、僕たちは、身をかがめて静かにしていた。

ふと、後ろを見ると、谷川さんの様子がおかしいことに僕は気づいた。

なぜか、彼は僕たちの方を見て、おびえていた。


いや、正確に言おう。彼は僕たちの頭上を見ておびえていたのだ。

そう、まるで、死神を見たかのように...。






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