1日目-2

  ***



「お、きたようだね。初めまして、ワタシは岡西美里。雑誌の記者をしているんだ」

 

初めにぼくたちに話しかけてきた気さくな女性はそう言った。そのままの流れで、自己紹介の時間となり、まだ挨拶をしていない他の宿泊客へ挨拶をしに行った。


「こんにちは、私は、谷川駆たにかわかける、カメラマンをしています」


「俺は、望月隼人、民間でSPをしている」


「私は、外垣そとがきさらら、大学生です」


「ボクは、神明玖珠かみあきくす、こんなんでも医者をやっているんだ」


「私は、ここの管理人をやってます、檜理恵ひのきりえって言います~」

 


自己紹介が終わり午後7時ごろになって、僕たち3人は優斗の部屋に集まった。



「如何したんだ優斗、なんか落ち込んでるみたいだが」

明らかに自己紹介前と後で、テンションが異なる優斗に対し燐が疑問を投げる。


「なんで…」


「ん?」


「なんで推理好きが一人もいないんだーー!」


「そこかよ!想像以上にしょうもない理由でびっくりしたわ!」

あまりにいつも通り過ぎて僕は笑ってしまった。


「まぁ、優斗楽しみにしていたからねぇ。今日こそ推理好きと出会えるかもしれない

 って」


「まぁ、おらんもんは仕方ないやろ、さ、管理人さんが言っていたこと話してくれ

 や」

なんだかんだ言って燐も結構この手の話が好きだよなぁと思いながら、

優斗の話に耳を傾けた。


「はぁ、分かった。事の発端は、5年前の6月22日、このコテージにとまっていたはずの丘真一が少し離れた森の中で無残な死体となって発見された。第一発見者はシカ狩りに出ていた猟師2名。死亡推定時刻は24時ごろ。丘は、心臓部分をえぐられあおむけでたおれていたらしい。さらに不思議なことには傷の部分から放射状に血の線が付いていたみたいなんだ。しかし、警察は熊にでも襲われたんだろうという事で捜査は終了した、というのが5年前の事件の全容だ」


「ふむ、特におかしい所は無いように思われるがどこが気にかかるんだい?優斗」

僕は、ありふれた話だと思いながら優斗に尋ねた。


「いやいや、道意琉クン、分からないことだらけじゃないか。まず一つ目、なぜ丘は深夜に森の中にいたのか?さらにクマに襲われたというのに、背中ではなく正面からの傷だ。冬ならともかく夏は食べ物が豊富にあるはずだ。背中を向けて走ったりでもしない限り襲われる可能性は低いとみていいだろう。このようにいくつか疑問点があることから、俺、叶優斗は、丘真一殺人説を提唱したい」

優斗は、声高にそう言い放った。


「「おおーー」」

僕と燐は、優斗の勢いに負け、そんな声を出したが、


「ちゃんと聞けよ!」

それが、聞いてないととらえたらしい優斗がそう言った。


「聞いてるわ!」

即座に燐が反応する。


「じゃあ、まずは、殺され方の謎について検証しよう」

優斗がそう言ったことで、僕たちの間で議論が始まった。


「後ろじゃなくて前から攻撃されたわけ...だったね?」


「そう、丘は背中ではなく胸に傷を受けていたらしい」


「という事は、クマに襲われたのではなく熊の仕業に見せかけた誰かの犯行という事か」


「そうかもしれんけど、警察もその辺の事はきづいてたんとちゃう?」

燐が鋭い指摘をする、確かにそうだ、警察もこの位の事、すぐに気づいただろう。


「ああ、そうらしい」


「なのになんで事故ってなったんや?」


「死亡推定時刻にアリバイが無い人が0だったからさ」


「はぁ?そんなことあるんか?」

たしかにその反応は正しい


「まぁ、無くは無いんじゃない?優斗はどう考えているんだい?」

しかし、僕は、あるんじゃないかと考えた。


「まあ、道意琉が言うように可能性としては無くは無いだろうな」

優斗も、可能性として捨てきれないと考えているらしい


「じゃあ、どうやって殺人っていうんや?」


「そこが難しい所だよね」


そこでふと僕は先ほどの自己紹介の事を思い出した。

「そういえば、あの谷川駆さんだっけ?カメラマンの。彼5年前もここに泊まりにではないけど来たって言っていたな」


「それ、ほんとうかい?!」


「ああ、ってそうか、優斗トイレ行ってていなかったんか」


「よし、じゃあ聞きに行こう」

優斗が座っていたイスからガタッと立ち上がった。


「いや、今何時やおもっとん」

燐が突っ込み、時計を見ると、いつの間にか時計の短針が12を過ぎていた。


「じゃあ、今日は寝ようか」


「せやね」


そのままその日は寝ることになり、波乱に満ちた1日目は終わりを迎えた。

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