第897話 実食、愛夫弁当
「うわぁ……!」
初めて真人の作ってくれたお弁当を見たんだけど、すごくしっかりと作られていて、とても綺麗だと思った。
卵焼きもすっごくおいしそうだし、オレンジとプチトマトもあって、初めてのお弁当は明るい色味の食品が多い印象だ。
その中に唯一暗色の小さなハンバーグがふたつあるけど、私が一番目を惹かれたのはまさにこのハンバーグだ。
だって、だって……このハンバーグ、耳が付いていてまるで猫さんみたいなんだもん!
「か、かわいい……」
きっと真人は普通にハンバーグを作る予定だったと思うけど、私が無類の猫好きと知っていたから、私のためにこの猫耳をハンバーグに付け加えたんだと思う。
真人が私を理解してくれて、私のために作ってくれた愛情いっぱいのこのお弁当だけど……。
「かわいくて、食べれないよぉ」
猫さんの形をしたこのハンバーグ……すっごく食べたいけど、同時にすっごく食べにくい。
「わ、すごいわね。これ、本当に中筋君が作ったの?」
「へ~、やるじゃん真人」
「卵焼きも形崩れてないし、猫のハンバーグもちょーおいしそう!」
「中筋君。私よりも料理が上手い……」
みんなにも高評価みたいだけど、せとかちゃんがちょっとショックを受けている。
「大丈夫だよせとか。私なんて料理できないんだもん」
「乃愛、それ、フォローになってない」
乃愛ちゃんはからからと笑っていて、せとかちゃんのツッコミも気にしていないみたい。
「舞依は料理できるん?」
「正直あんまり……。千佳ちゃんは?」
舞依ちゃんもあんまり料理はしないんだ。
ちぃちゃんは確か……。
「千佳ちゃんはできるでしょ! だって清水君がいるんだから」
乃愛ちゃんは大きな声で言ったけど……誰かとお付き合いをしているからって、料理ができるとは限らないんじゃ……。確か茜さんは料理できないって言ってたし。
「乃愛。それ関係ない。でも、宮原さんはできそうな雰囲気がある」
確かにちぃちゃんはなんでもそつなくこなすイメージを持たれやすいけど……。
「ちょ、あんたたち……」
「ねぇ千佳ちゃん。実際のところどうなの?」
みんなの視線がちぃちゃんに集中していて、さすがのちぃちゃんも少しだけ困っているみたい。
「い、今、特訓中だよ……」
ちぃちゃんは今、お母さんの千夏さんに料理を習っている最中って前から聞いていたから私は知っていたけど、三人は「おー」と言ってちょっと驚いていた。
そんなちぃちゃんのお料理事情を知った乃愛ちゃんは、ちょっとイタズラっぽい笑みを見せてちぃちゃんに近づいた。
「やっぱり、清水君に食べてほしいから?」
「……それ以外に、なにがあるっての?」
ちぃちゃんは頬を赤くして、照れくさそうにボソボソと答えた。かわいい!
そして、そんな空気に耐えきれなくなったのか、ちぃちゃんは「あー、もう!」と言って、頬が赤いまま乃愛ちゃんを睨んだ。
「今はあたしのことはどーだっていいじゃん! 綾奈! あんた早く真人の弁当を食べなよ!」
「あ、そうだった。綾奈ちゃん。早く食べて感想を聞かせて」
「う、うん……」
「わくわく」
みんなが私に注目しているから、な、なんだかちょっと食べづらいなぁ。
でも、旦那様が作ってくれたお弁当、早く食べたいから、気にしないようにしよう。
私はスマホでお弁当を撮影してからお箸を持ち、どれを食べようかちょっと迷って、卵焼きを掴んで、そのまま口の中に入れた。
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