第885話 夫婦に興味があるのは会長だけじゃない
時間は数時間遡り、風見高校三年生の一教室。
授業が終わり、ショートホームルームを経て放課後となった途端、生徒会副会長の萩生有紗はカバンを持ち隣のクラスへ入り、自分の彼氏で風見高校生徒会長の神郷晃の元へ。
「晃、お疲れ様」
「あぁ。有紗もお疲れ」
「ねえねえ、今日って生徒会の仕事って何もないのよね?」
「そうだが……どうした? 久しぶりにデートでも行くか?」
放課後も生徒会の仕事で忙しくしている晃と有紗。多忙故放課後にデートをすることなどあまりなかったが、今日は放課後デートができる絶好のチャンスと思い、晃は言葉こそあまり抑揚を持たせなかったが、内心では嬉しさで溢れていた。
大好きな女性とのデートで心が踊らない男はいない。それは真面目な晃とて例外ではない。
晃は内心ウキウキしながら椅子から立ち上がろうとした。
しかし───
「あ、ごめんね。今日はちょっと予定があって、本当に仕事がないかを確認しに来ただけなの」
「そ、そうか……」
晃は足の力が抜け、また椅子に座り込んでしまった。
「デートはまた今度ね。それじゃあまた明日ねー」
「お、おぉ……」
有紗はそのまま足早に教室から出ていき、晃は力なく返事をして有紗のいなくなった教室の扉をただじっと見つめていて、そんな晃をクラスメイトがなんとも言えない表情で見ているという構図がしばらく続いた。
靴を履いた有紗。これから予定がある場所まで行くのかと思いきや、校門を抜けたところで立ち止まり、校門に背中からもたれかかった。
誰かを待っているようにその場に留まる有紗に、同級生や下級生の何人かは有紗に挨拶をし、有紗も挨拶を返していると、昼休みに生徒会室で言葉を交わした二年生……中筋真人の姿が見えた。
真人も有紗を見つけ声をかける。
「あ、副会長も今から帰るんですか?」
「ええそうよ。中筋君は……もしかして今から婚約者さんとデート?」
有紗の質問に、真人の表情が途端に明るくなる。
「はい! 今から一緒に寄るところがありまして。じゃあ副会長、俺はこれで」
「うん。バイバイ中筋君」
有紗は手を振り、有紗に軽く会釈をした真人は、足取り軽く駅に向けて歩きだした。
真人を見送り、その姿が小さくなったところで、有紗は移動を開始する。真人と同じ方角に。
(ふふふ。中筋君とその婚約者さんは一体どんなデートをするのかしら? 今から楽しみだわ)
有紗の用事……それは真人のあとをつけ、真人と綾奈のデートを観察することだった。
今日の昼休み、生徒会への勧誘を自分と綾奈のために断った真人。有紗は晃が真人を生徒会に勧誘したい旨を聞かされた時から真人に興味を持っていたが、勧誘を断ったことでさらに興味が増し、その興味が綾奈にも向けられていた。
(久保田さんから今日の部活はないって聞いていたし、さっき中筋君からも言質を取った。これはもう即日実行するしかないじゃない!)
有紗は真人を見失わないよう、絶妙な距離を保ちつつ尾行する。
有紗は実際電車通学で、家は真人たちの降りる駅のひとつ手前の駅から徒歩十分ほどの場所にある。それ故に副会長の有紗が風見高校一有名な男子生徒を尾行しているなど、誰一人として気づかないし怪しむ生徒はいない。
(楽しみなんだけど……杏子ちゃんと茜ちゃんが言った『見るなら多分覚悟が必要だよ』って、どういう意味なのかしら?)
あの夫婦をよく知る同級生の杏子と茜からの忠告。
みんながいる中であれだけ平然とイチャイチャできる夫婦だから、ふたりきりになると当然、自分たちが知っている以上のイチャイチャが繰り広げられるというわかりきった予想からの忠告だったが、もちろん有紗にはあまり伝わっておらず、興味と好奇心を削ぐには全然不十分だ。
深く考えることなく、駅に到着した有紗は真人が電車に乗ったのを確認し、自分も隣の車両に乗り込んだ。
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