第884話 真人が積極的に

 楽しくおしゃべりをしながら公園に到着した。

 なんかあっという間に感じたな。それだけ綾奈と一緒にいること自体が楽しいし幸せだからな。

 まだ明るいが時刻は五時を過ぎているからか誰もいなかった。もう夕飯の準備をしている時間だからかな?

 考えていても仕方ないし、イチャイチャする時間がなくなってしまうので、公園に入り、いつものベンチに。

 綾奈のスカートが汚れないためにほとんど使っていないタオルを敷き、そこに綾奈を座らせる。笑顔で「ありがとう」と言ってくれる綾奈にドキッとする。

 ドキドキしながら俺もゆっくりベンチに座ると、綾奈はすぐに俺との距離をなくしてくっついてきた。ドキドキが加速する。

 ここに来るまでにたくさん話をしたし、綾奈もあまり時間がないとわかっているから、すぐにイチャイチャしようとしている。

「……?」

 いつもなら綾奈から俺にいきなりキスをしてくるんだけど、今日はそれが素振りすらない。

 だけど頬を染めて上目遣いで俺を見てくるから、キスをしたくないわけではないみたいだ。

「綾奈?」

 ちょっといつもの綾奈らしくないと思い声をかけると、綾奈はハッとしたような表情を見せたかと思ったら、「え、えっとね……」と言って目を泳がせている。何か言いたそうな雰囲気だが……。

 数秒後、決意が固まったのか、綾奈はさっきよりも赤みが増した頬をしてまた上目遣いで俺を見てきた。さっきと違うのは眉が若干つり上がっている。

「あのね真人……」

「うん」

「今回は……真人からちゅう、してほしい」

「俺から?」

 綾奈は「うん……」と言い、理由を話しはじめた。

「最近は、私からちゅうすることが、多かったじゃない? だから……」

「だ、だから……?」


「だ、だから……ましゃとからのちゅうが、欲しい……」


「んんっ!」

 綾奈可愛い綾奈かわいいあやなかわいい!!

 なんなんだこのお嫁さん! 頬を染め瞳を潤ませての上目遣い、そして俺が綾奈の可愛さに悶絶しているのを気にせずにゆっくりと目を閉じてのキス顔!

 自室でひとりなら絶対にベッドでゴロゴロと転がっていることだろう。

 というか可愛さが天元突破していてもはやよくわからん!

 俺の脳内ではただひたすらに『綾奈可愛い!』の文字が流れている。まるで動画配信者の生放送のコメントが右から左へ流れるように。

 少し離れた公園内にある草むらがガサッと音を立てて揺れた。少し強い風が吹いてるからだな。

 そんなことを気にしている場合じゃない。早く綾奈とキスをせねばだ……!

 俺はゆっくりと綾奈の両腕を掴んだ。すると綾奈の体がピクッと少しだけ跳ねたが、目を開ける気配はない。

 綾奈に聞こえるんじゃないかってくらい心臓がバクバク言っている中、俺は綾奈の顔に自分の顔を近づけ、そっと綾奈の唇に自分の唇を押し当てた。

「ん……」

 綾奈の可愛らしい声に一瞬理性が消し飛びそうになるが、なんとか堪えてさっきよりも強く唇を押し当てる。

 いつもならもう既に、綾奈が俺の唇を食んだり、舌を入れてきてもおかしくないのに、今日は綾奈から仕掛けてこない。

 どうやら今回はとことん受けに徹し、俺がリードするのを待つスタンスのようだ。

 俺が普通のキスで焦らし、綾奈がどこまでその焦らしを我慢できるのか試したい衝動にかられかけるが、確実にむぅ案件だし、あまり時間ないし俺ももっと激しいキスがしたいという気持ちが強いので、それはまた時間に余裕のある時にしよう。

 綾奈の腕を掴んでいた両手に少しだけ力を加え、自分の方にゆっくり引き寄せ、食むようなキスも織り交ぜる。

「ん……んんっ」

 綾奈も俺と同じように唇を動かしてキスをしてくれる。

 綾奈の可愛く艶のある声を聞き、もうちょっと今のキスをしようと思っていた俺の理性が少し崩れ、自分の舌を綾奈の口内へと侵入させた。

「ん! んー……ましゃと……」

 俺が舌を入れると、綾奈はまるで『待ってました』と言わんばかりに自分も舌を積極的に絡ませてくる。

 ゆっくりと綾奈の腕を離すと、綾奈はすぐに自分の両腕を動かし、俺の首に回した。

 それだけじゃなく、腕に力を入れて引き寄せようとしてくる。既にゼロ距離にもかかわらずだ。

 今回は受けだけかと思ったが、甘えモードマックスになったのか綾奈がどんどんいつもの……俺だけに見せる積極的な綾奈にシフトしている。

 だけど俺も負けていられない。今回はリードすると決めたのだから。

 俺は綾奈の腰辺りに腕を回し、綾奈に負けないように激しいキスをする。

「はぁっ……ましゃと、いつもよりはげしんんっ……!?」

 珍しく綾奈から唇を離したが、俺はそれを許さずにすぐに唇を塞いだ。

 今回は完全に俺が主導権を握ったが、外なのがちょっと残念と思ってしまった。

 だって、外だとキスより先のことはさすがにできないから……。

 お互い満足するまでキスをしたのだが、時間を確認すると六時がすぐそこまで迫っていたので、俺は綾奈を家まで送ってから帰った。

 綾奈の家まで向かう道中、綾奈は俺の腕にギュッと抱きついたまますごく嬉しそうな表情だった。

 途中で理由を聞いたら、俺からあんなに激しいキスをしてくれたのがすごく嬉しかったそうだ。

 それを聞いてまたキスがしたくなったがなんとか耐えた。

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