第876話 はしゃぐ一年、ちょっと気まずい二、三年
坂井先生が言ったビッグニュース、他のみんなは予想外だったようでみんなはテンションが上がっている。
「え、高崎って……あの高崎高校ですか!?」
「去年全国で金賞とってますよね!?」
「そんな先生の指導を受けられるなんて……」
一年生女子は感動している子が多いな。というかやっぱり高崎高校って合唱界隈では有名なんだな。
「松木先生、さすがの人気だな」
「そうだね」
一哉と健太郎は麻里姉ぇの人気の高さを改めて再認識しているようだ。
「しかも、高崎合唱部の顧問の先生ってものすごく美人なんですよね!?」
「あ、それ聞いたことある。男子だけじゃなくて女子も振り返るほどの美人なんだろ?」
「そんな人を見れるとか……合同練習が今から楽しみだな!」
「しかも向こうの合唱部には、高崎の一番の美少女がいるって話だぞ!」
「マジかよ! 合同練習、明日にならねーかな?」
一年男子は、練習というより綾奈と麻里姉ぇに会えるのが楽しみなようだ。
「あいつらは呑気だな。気持ちはわからんでもないが」
「彼らは綾奈さんが真人の婚約者なの、知らないんだよね?」
「言ったことはないからな」
四月から練習に参加しているとはいえ、後輩とそんなに話す機会はなかったしな。
他の人も後輩には言ってないっぽいな。
二年生、三年生は一年生と同じ感想を持った人もいるが、半分以上は麻里姉ぇの指導の厳しさを思い出していたり、四月の頭にあった騒動を思い出しているのか、気まずい顔をしている人が多い。
四月一日の部活後、地元の駅に戻った俺はそこで偶然麻里姉ぇと会い、麻里姉ぇが俺の喉を触ったり頭を撫でたりと、俺を甘やかしながら労い、車で家まで送ってくれたんだが、俺の後をつけていた部長がそれを目撃。俺が麻里姉ぇと浮気していると勘違いをしてちょっとした騒動に発展した。
ほとんどの人は、麻里姉ぇと会うのはそれ以来になるはずだから、やっぱり気まずいんだろうな。
その中でも部長は特に気まずそうな顔をしている。無理もないと言えばそうなんだけど……。
主に一年生のテンションが上がっている中、坂井先生が手を叩きながら「はいはい、静かに」と言って部員たちの視線を集めた。
「少し前から高崎の先生と話し合いをしていて、昨日でその話し合いが大幅に進んだの。日程はまだ調整が必要だけど、期末テスト後になると思うわ」
麻里姉ぇからもそんな話は聞いたことがない。今日まで伏せられていたのなら仕方ないが、綾奈もきっと知らなかったんだろうな。
「前回は向こうの方々が来てくださったので、今回は私たちが行くことになったから」
次の合同練習は高崎高校でやるのか坂井先生が言ったように前回はここでやったから、まぁ当然の流れだな。
高崎高校に入るのは去年の文化祭以来だ。向こうの音楽室に入るのは初めてになるから、どんな感じなのか今からちょっとワクワクしてきた。
どうやら麻里姉ぇと坂井先生の打ち合わせは、現段階ではそこまでしか決まっていないようで、「また何か決まったら追って伝えるわね」と言って、この場は解散となった。
俺は帰り支度をしている部長に近づき声をかけた。
「部長」
「どうしたの中筋君?」
いつもと変わらない部長かと思ったけど、やっぱりちょっとだけ思い詰めた表情をしていたのを俺は見逃さなかった。
「その、麻里姉ぇはもう、先月のことは気にしていないですよ」
「……!」
部長は驚き、目を見開いた。
そしてすぐ苦笑いをした。
「あはは……やっぱり気づいてたのね」
「そりゃあ……麻里姉ぇはもちろん、俺も、綾奈も部長に謝ってもらって、マジでもう気にしていないので、部長もいつも通り、坂井先生と一緒に俺たちを引っ張ってくださいよ」
「……ありがとう中筋君。わかったわ。全国に挑戦できる最後の年……後悔なんてしたくないもの。私も全力で頑張るから、あなたも力を貸して」
「えぇ、もちろんですよ。みんなで一緒に全国に行きましょう」
部長に笑顔が戻った。
やっぱり声をかけて正解だったな。
この人がいないとまとまらないし全国だって遠のいてしまうから。
それから校門まで、俺たちと部長と、四人でおしゃべりをしながら向かった。
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