2年生編第3章 勧誘、夏休みの予定、そして親友対決
第875話 莉子の連絡事項
球技大会の翌日、五月三十日。
朝にメッセージが届いていて、確認すると茉子の球技大会優勝を祝福するちょっと長めのメッセージだったので、ちょっと長めに返信したこと以外は特に変わりのない日で、最終下校時刻の五時半が近づく中、俺たち風見高校合唱部は、あと二ヶ月と少しに迫った合唱コンクールに向けて練習に励んでいた。
「はい、今日はここまでね」
「「ありがとうございました!」」
今日も今日とて喉が少し枯れるくらい歌い倒し、帰り支度をしようと思った矢先、顧問の坂井先生が俺たちに声をかけてきた。
「あ、ちょっとそのまま聞いてほしいことがあるから、ちょっと待って」
いつもなら礼をしてそのまま解散になるし、連絡事項があるのなら部活前に伝えることが多い坂井先生が珍しいな。
「坂井先生。聞いてほしいこととはなんでしょうか?」
俺たち生徒を代表して、久保田部長が先生に質問をしたのだが、坂井先生は勿体つけるように「ふっふっふ~」と笑っていた。
いや、マジでなんなんだ? 坂井先生がこんな笑い方をするのは珍しい。朗報なのか、それとも悲報なのか読み取りにくい。
多分朗報だと思うが、坂井先生が朗報だと思っているイコール俺たち生徒も朗報と思うとは限らないからな。
特別講師を呼ぶとか、学校の音楽室ではなくて、どこかのホールでの部活で本番の空気を感じながらの練習とかかな?
「えーなんですか先生。早く教えてくださいよ~」
そう言ったのは部長の隣にいた先輩の女子部員だ。気だるそうな感じじゃなく、坂井先生が何を言うかちょっとワクワクした感じだ。そのワクワクが裏切られなければいいけど……。
俺は固唾を飲みながら坂井先生の言葉を待つ。
「実はね、二年生、三年生は去年も行ったアレをまたやることが決まったのよ」
肝心な部分を濁した坂井先生。
「勿体つけるよな。一体なんなんだ?」
「うーん……わからないね」
「去年だから、健太郎は経験してないことだろうけど……」
合唱関係で、俺たちが去年経験したこと? 特別だと思うことはいくつかあったし、その最たる出来事は今も鮮明に覚えている。というか忘れるはずがないけど……まさか、アレをまたやるのか?
「なあ真人。もしかして……」
「あぁ。俺も同じことを考えていた」
どうやら一哉も俺と同じ考えに至ったようだ。
もし本当にアレなら間違いなく朗報だ。
俺にとっては百パーセント朗報だけど、もしかしたら一部の人には一割か二割くらいは悲報になるかもしれない。
「真人、一哉。一体何があるの?」
「あぁごめん。多分だけど───」
「先生ー早く教えてくださーい!」
俺たちの近くにいた元気な後輩男子が元気に答えを催促した。
最終下校時刻まであと十分少々、これ以上引き伸ばしてもいいことはない。
それもわかっているようで、坂井先生はいよいよ答えを告げる。
「実はね、去年も行った、高崎高校との合同練習をまたやることが決まったわ!」
坂井先生が告げたことにより、音楽室に生徒のザワザワとした声が広がる。驚いたり嬉しそうだったりびっくりしたりと様々な反応だ。
俺は少しだけ驚いたけど、やっぱりかと思って特に何も言わなかった。
前回は去年の十月に行われた高崎高校との合同練習。練習もそうだったけど、その日は色々と驚かされたし、忘れられない思い出もできた日だった。
麻里姉ぇの指導はそれはまぁ厳しいものだったし、お昼休みには綾奈と付き合う前だったけど千佳さんの仕業で綾奈の『あーん』を経験できて、そして俺と綾奈が初めてお互いを名前で呼び合うようになった日でもあるから、あの日は色んな記念日として鮮明に記憶に残っている。
綾奈と麻里姉ぇが実の姉妹だというのもその日に知った。あの衝撃も今でも忘れられないよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます