第866話 ぬいぐるみの名前
照れもなんとかおさまり、俺はさっきから気になっていた、綾奈が持っている少し大きめな袋について聞いてみることにした。
ちなみにこの間に高木と長岩は帰った。
「ところで綾奈、その袋はなにが入ってるの?」
「それ私も気になってた! ねね、アヤちゃん。見せて」
杏子姉ぇも興味を持っていたようだ。
気にはなるけど、見せてくれるものなのかな?
「いいよ。ちょっと待ってね……」
どうやら見せても大丈夫な物らしい。綾奈は袋に手を入れて中身……ちょっと大きめな犬のぬいぐるみを見せた。
「わー、犬じゃん! 可愛い!」
「ホントだ! 可愛いです!」
「どこで買ったんですか?」
立川さん、もしかしてこの犬のぬいぐるみ欲しいのかな?
だけど、綾奈が猫以外のぬいぐるみを買うのは珍しいな。この犬も確かに可愛いけど、一目惚れでもしたのかな?
「これはね、クレーンゲームで取ったんだよ」
マジか。買ったんじゃなくプライズだったとは。
というか、綾奈がゲーセンで何かを取ったのって初めてじゃないか? 少なくとも付き合ってからは聞いたことがない。
しかもわりとデカいから、けっこう苦戦したんじゃ……。
「え、すごっ! 西蓮寺先輩ってクレーンゲーム得意なんですか?」
「得意ではないよ。この子を取るのに十回以上は挑戦したから」
そこまでして取りたかったとは……よほどあのぬいぐるみを気に入ったんだな。
顔を見るに、この子はきっと女の子だな。
綾奈の部屋に置くとなると、まーくんとあーちゃんの隣か? まーくん、両手に花状態になるな。あーちゃんが嫉妬しなければいいけど。
などと、ぬいぐるみたちの恋愛事情を案じていると、綾奈から予想外の言葉が飛んできた。
「はい真人。この子は真人へのプレゼントだよ」
「……え?」
俺への、プレゼント?
つまり綾奈は、最初から俺にプレゼントするために、この子をゲットしたってのか?
「い、嫌だった……?」
俺が言葉に詰まっていると綾奈がしゅんとしてしまった。咄嗟の判断ができなかったことを悔いる。
「い、いや! 素直に嬉しいよ。俺へのプレゼントだとは思ってなくてびっくりしただけ。俺はてっきり綾奈がその子に一目惚れしてゲットして、綾奈の部屋でまーくんとあーちゃんとの三角関係が勃発するのかとばかり思って……」
「ま、まーくんとあーちゃんは私たちのようにラブラブだから、三角関係になんてならないもん!」
なんか突っ込むところが微妙にズレている気もしないでもないが、とりあえず黙っておこう。
「西蓮寺先輩。まーくんとあーちゃんってなんですか?」
そっか。杏子姉ぇは綾奈の部屋に行ったことがあるから知っているけど、一宮さんたちは知らないんだった。
綾奈が説明する前に杏子姉ぇが三人に説明していた。名前の由来は俺と綾奈というのも含めて。
それを聞いて後輩三人は「やっぱり!」と言っていた。
ちょっと時間がかかってしまったが、俺は犬のぬいぐるみを綾奈から受け取った。
「ありがとう綾奈。とっても嬉しいよ」
「えへへ、よかった。その子を持ってる真人、とってもかわいい♡」
「あ、ありがとう綾奈」
可愛いのは綾奈だっての。その天使な微笑みは反則だ。
「マサが可愛いかはともかく、アヤちゃん。この子の名前は決めてあるの?」
「うん。ちょっとだけ恥ずかしんだけど、決めてあるよ」
名前は俺も気になってた。まーくんとあーちゃんはしっかり名前をつけたから(俺が)、恐らくこの子にも名前はつけるものだと思っていたから。
しかし、ちょっと恥ずかしいってのはどういう意味なんだろう?
五人の視線が綾奈に集中する中、綾奈はコホンと可愛い咳払いを一度してから、この子の名前を言った。
「この子の名前は、なっちゃんです」
なっちゃん……なっちゃんか。可愛い名前だな。
でも、なんで恥ずかしいなんて…………あぁ、そういうことか。
「アヤちゃんもしかして、自分の名前から取った?」
俺よりも早く杏子姉ぇが気がついたみたいで、それを聞いて綾奈は少し頬を染めてコクリと頷いた。
あーちゃんは綾奈の『あ』から取って、そして今回のなっちゃんは『な』から取ってるんだ。
「真人、なっちゃんを可愛がってね」
「もちろんだとも。大切にするよ。本当にありがとう綾奈」
綾奈からのプレゼントなんだ。大切にしないわけがない。ちゃんと部屋に飾るし手入れも頻繁に行う。
しばらくは部屋に飾ったなっちゃんを見たら嬉しくてニヤニヤしそうだ。
「で、でも……」
なっちゃんを見ていると、綾奈から小さく声が聞こえてきたので綾奈を見ると、なぜか頬を染めて上目遣いでモジモジしていた。控えめに言って世界一可愛い。
「ん?」
「わ、私を……一番に、可愛がってね」
「んんっ!」
綾奈の破壊力抜群の言葉が俺にクリティカルヒット! 俺はその場にしゃがみこんでうずくまった。
普通なら抱きしめ潰しそうなのに、その中でなっちゃんを優しく抱きしめているのを褒めてほしい。
「ま、真人!?」
「アヤちゃんってたまーにとんでもないことを言うよね。マサ、生きてる?」
「な、なんとか……」
「西蓮寺先輩……可愛すぎです!」
それはもう万人共通の認識だと思うよ。
結局、心を落ち着けさせるのに三分くらいかかって、やっと落ち着いて電車に乗ろうとしたら茜を送っていた一哉がやって来た。
絶対に一哉は茜とイチャイチャして来たはずなのに、ここで意図せず合流したってことは、俺たち、けっこうここで長い間喋ってたんだな……。
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