第857話 決着
試合が再開してから三分くらいが経過して、スコアはまだ一対一のイーブンだ。
長岩は相変わらず高木のマーク。
ここは変わらないのだが、他の相手のクラスのメンバーは作戦を変更していた。
長岩以外は俺たちの陣地に入ってないのは変わらないのだが、ボールを持った俺のクラスメイトに二、三人でマークする作戦にシフトしていて、これはなかなか攻められない。
ボールを奪ったらすぐさま長岩にパスを出して速攻を狙う作戦だろう。
現に今、ボールを持っているクラスメイトのテニス部にマークがふたりついている。さらにもうひとり向かってきている状況。
「くそ!」
たまらずテニス部は左側にパスを出すが、そこには誰もいない。
一番近くにいるのは俺だが、間に合うか?
いや、間に合わせる! ボールが出てしまえばスローインでまた長岩にボールが行く。
それだけじゃなくゲームの流れも完全に三組に傾いてしまう。だから取る!
「うおおぉぉーー!」
全速力で走り、なんとかラインをわるギリギリでボールを取ることに成功した。
だが次の瞬間、俺の体の右側に衝撃が走り、俺はうつ伏せの状態で倒れた。
倒れた直後にホイッスルが鳴って試合が中断する。
痛みに顔を歪めながら上体を起こすと、そこには長岩が立っていた。
どうやら長岩もボールを取ろうと走っていたらしく、それで俺とぶつかって俺がフィジカルで負けて吹っ飛ばされたようだった。
長岩が手を貸してくれて、俺は立ち上がるが、左膝に痛みがあり、見ると少しだけ擦りむいているようだった。
長岩も言動は問題があるけどスポーツマンシップもあるみたいで、「悪かった。大丈夫か?」と言ってきたので、俺が大丈夫な素振りを見せると、もう一度謝って俺から距離を取った。
俺が体についた土埃を払っていると、健太郎と高木が駆け寄ってきた。
「真人、大丈夫!?」
「無事か中筋!?」
「あぁ、大丈夫」
俺はその場で軽く跳躍して見せる。痛みは多少あるが、血も滲むくらいだからいける。
審判をしていた先生にも大丈夫の旨を伝え、こちらからのフリーキックで試合が再開する。蹴るのは高木で、ボールから距離を取った。
ゴールまで二十メートルもない距離、加えて相手のメンバー全員がいるから、無理にパスを繋ぐよりも直接ゴールを狙うようだ。
俺は念の為ゴール前に立っておく。
そして怪我をしている俺のマークにはスポーツが苦手そうな小太りな生徒。
ホイッスルが鳴り、高木が助走をつけてボールを蹴り上げる。
ボールはカーブしながらもゴールに向かっている。高木、フリーキック上手いな!
ゴール端を狙った高木のフリーキックが入るかと思われたが、相手キーパーがジャンプからのパンチングでそれを阻止。俺たちから見て左側のポストに当たってボールが転がる。
それを見た瞬間俺は反射的に走った。
ポストに弾かれたボールが俺の方に飛んで来たのがわかったからだ。
俺のマークについていた小太りな男子は俺が前に飛び出したのを見てびっくりしているだけで俺を追いかけたりはしてこない。
俺の動きに気づいた相手生徒たちが駆け寄ってくる。
トラップしてたらシュートチャンスがなくなる。キーパーもジャンピングパンチでバランスを崩しているからダイレクトで決めるしかない!
「「真人っ!」」
「行け中筋! 決めろ!」
一哉、健太郎、高木の声を聞きながら、俺は右足を振り抜い……たりはせず、小さくバウンドするボールを軽くインサイドで右側に蹴る。
俺の蹴ったボールは勢いは弱いが、そのまま相手ゴールに入った。
ゴールを告げるホイッスルと一際大きな歓声が俺たちの耳に入り、次に聞こえてきたのは試合終了を告げるホイッスルだった。
俺のゴールが決勝点になるという、自分でもまったく予想だにしなかった展開で優勝を勝ち取った俺たち二年一組。周りからの大きな拍手を聞きながら、激闘を繰り広げた三組と礼をした。
その際に擦りむいた膝を見たら、ちょっとだけど血が流れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます