第850話 動画スタート

 ファーストオーダーのケーキを食べ終えて、二個目のケーキが来るのをちぃちゃんとお話をしながら待っていると、お姉ちゃんがやってきた。手にはスマホを持っている。

「お邪魔するわね」

「邪魔だなんてとんでもない。どうぞ麻里奈さん」

「そうだよお姉ちゃん」

 お姉ちゃんは「ありがとう」と言って、私の隣に座った。

「ちょうど莉子から例の動画が送られてきたから、今から見ましょ」

「ほ、本当!? お姉ちゃん!」

 きっと真人の試合の動画だ。間違いないよね!?

「例の動画?」

 そういえばちぃちゃんには話していなかったのを思い出して、私は莉子さんに、今日の球技大会の真人の試合を撮影をお願いしていたのを説明した。

「……本当にふたりは真人が好きなんだから」

「あら、そんなの当たり前じゃない」

「お姉ちゃん。あとで私のスマホにも送ってね」

「わかってるわ。まずはここで見ましょ」

 お姉ちゃんはスマホを横に向けてテーブルに置いて、莉子さんが撮影した動画を再生した。

『え、もしかしてもう既に撮ってます?』

 試合のシーンかと思ったら、その前の映像だった。

「ちょっと驚いてる旦那様……かわいい♡」

 莉子さん、私とお姉ちゃんが喜ぶと思って、試合以外でも真人を撮影してくれたんだ。

「あら、わかってるわね莉子」

 お姉ちゃんの一言に、私は心の中で大きく頷いていた。


 それから映像は、真人が他の合唱部員の皆さんが怪我しないか心配しているところに。

「綾奈がヤキモチ焼いてない!」

 ちぃちゃんが私を見てびっくりしていた。

「さっきのは真人が優しいから言っただけで、他意はないってわかってるもん」

 真人は自然と他の人の心配もしちゃうとっても優しい人なのは、私が誰よりもわかってるから、そんなことではヤキモチを焼かないよ。


 次のシーンでは杏子さんと茜さんと、そして風見の合唱部の部長の久保田さんが映っていた。

 あ、杏子さんが真人の頭を撫でてる!

「杏子センパイも普通に真人を甘やかしてるね」

「そうね。それに真人もまんざらでもない感じが見て取れるわ」

 小さい頃から茜さんと一緒に真人にイタズラをしていた杏子さんだけど、やっぱり真人が大好きだから、真人が照れるとわかっててああやって撫でてるんだ。

「私にだけ甘えてほしいのに……」

「あ、そこはヤキモチ焼くんだ……」

「でも真人が自分から甘えるのは綾奈だけなんだからいいじゃない」

「う、うん。えへへ♡」

 真人が自分から甘えてくるのは本当にたまにしかないけど、そんな旦那様がすっごくかわいすぎるから、いっぱいよしよしってしたくなっちゃう。

 今日会った時、真人から甘えてきてくれないかな?

「あたしの親友、相変わらずチョロい」

「……むぅ」

 ちぃちゃんがボソッと何か言っていたけど、私は久保田さんの笑顔に真人が少しドキドキしていたのが気になってそれどころではなかった。

『綾奈ちゃーん、松木せんせー。真人が久保田さんにデレデレしてまーす』

 茜さんが莉子さんの持つスマホに向かってそう言うと、真人は明らかに動揺していた。

「あら、あの部長さん笑うとすごく綺麗ね」

 先月、私に謝罪した時は笑顔は見せなかったけど、お姉ちゃんの言うように、久保田さん……笑ったらとっても綺麗。

 でも、やっぱり真人が私以外の女の人にドキドキするのはやっぱり複雑だよ。

 これは今日会ったら、私にいっぱいドキドキしてもらって久保田さんのドキドキを上書きしないと! いっぱいイチャイチャして忘れさせないと!

 まだ少しむぅ。ってしながら動画を見ていたんだけど、一宮さんたちの声が一瞬聞こえたと思ったら次の瞬間には試合のシーンに切り替わっていた。

 なんで一宮さんたちの部分が消されたのかはすごく気になるけど、とりあえず今は気にしないようにして、試合がどうなったのかを見ることに専念しよう。

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