第844話 違和感に気づく
後半が始まって八分が経過した。
ボール支配率は向こうが多いがスコアは変わらず1対0でうちのクラスがリードしている。
このままいけば俺たちは勝って決勝に駒を進めることができる。
だが俺は、相手の攻め方に違和感を感じていた。
違和感と言ったが、俺の勘違いかもしれない小さな気づき……。
相手が俺のいる左から攻める回数がなんだか多い気がするんだ。
真ん中や右から攻めるときももちろんあるが、それでも二回くらいで、左から攻める回数が四回と倍だ。
単純に俺がいる所から攻めるのが、相手のサッカー部が得意とする戦術なのかもしれないが、違和感は味方にもある。
それは、俺の所から攻められ、そして抜かれたらほぼ必ずうちのクラスのサッカー部高木が俺の後ろに来てフォローしている。四回中三回はそうだ。
本物のピッチより広くないとはいえ、これだけ縦横無尽に駆けていれば体力はなくなるというもの。現に高木は息が上がっている。
申し訳なさを感じて謝るも、そいつは「気にすんな」と優しい声をかけてくれてまたゆっくりと走って上がって行く。
いつまでも周りに頼ってばかりじゃいられない。相手のサッカー部の動きもちょっとずつわかってきた。
俺が抜きやすいからこっちから攻めるのなら、その油断を後悔させてやるまでだ……!
グラウンドから少し離れた場所で観戦しているみなみたち三人とカメラ担当の莉子は心配そうに真人を見ていた。
「中筋君、やっぱり苦戦してるわね」
「そうですね……」
「でも、なんで相手の先輩は真人神様のいる所からよく攻めるんでしょう?」
「真人神様がいるコースが、あの先輩が攻めるのを得意としてるからかな?」
雪穂も真人と同じ予想を立てていた。
中学時代、修斗の応援でよくサッカーの観戦をしていた三人は、サッカーの知識も持ち合わせている。
そこでみなみはもう一つの疑問を口にした。
「でも、真人神様のクラスのサッカー部の先輩、なんであんなに早くフォローに入れるのかな?」
「どういうことなの一宮さん?」
みなみの疑問……それは高木が必ずと言っていいほど真人のフォローに入っていること。それだけなら経験者がカバーしていると思われがちだが、みなみの見解は違う。
「あの先輩、相手のサッカー部の先輩がボールを持ったら、なんの迷いもなく真人神様の後ろまで下がっているんです。普通ならどこから攻めて来るかわからないし、相手の先輩が個人技で攻めて来ないかもしれないのに。まるで、あの先輩が最初から真人神様を狙うのがわかっているような気がして……」
「それは、中筋君のいる所から攻めるのが得意だから、それを見越してのことじゃないの?」
莉子の疑問に、次は果林が答えた。
「それは相手の先輩もわかってるはずです。同じサッカー部なら、手のうちや得手不得手は熟知しているはずです。なのに相手の先輩はそんなこと気にする様子もなく真人神様ばかり狙ってるようで逆に不自然なんです。読まれても問題ないみたいな……、」
「ね、ねぇみなみ、果林……。もしかしてなんだけど───」
「あ、一宮さんたち。それに坂井先生も。ここにいたんですね」
そう言って四人の後ろから声をかけたのは香織だ。
「あ、北内先輩」
「「こんにちは」」
「北内さん。確か試合じゃなかった?」
「あ、私の出番は終わったんです。このままいけばうちのクラスは勝てるので、男子の様子が気になって来たんですよ」
香織はそう言うとグラウンドに目を向ける。香織の目に最初に入ったのは、またしても真人が相手のサッカー部に抜かれてしまった姿だった。
「ああ……」
少し残念そうな声を出す香織。
「あ! また真人神様が狙われてる」
「そうなの?」
「はい。あの人ほとんど真人神様がいる所から攻めてるんです!」
果林と雪穂も「そうなんです!」と強い口調で同意しているが、カメラを回している莉子だけは違っていた。
「でも、最初に比べると、中筋君は相手についていってる感じがしたわ」
「「「え?」」」
みなみたちはグラウンドに視線を戻す。
そして少しすると、また相手のサッカー部御蔵が真人を抜いたのだが、最初に比べると明らかに時間がかかるようになっていた。
「ほ、本当だ!」
「真人神様、サッカー部の人に動きでついていってる!」
「ど、どうして、こんな短時間に!?」
後輩三人の疑問に、香織はなぜか自慢気に答えた。
「真人君から聞いたんだけど、真人君……実は修斗君っていうイケメン君から直々にサッカーの特訓に付き合ってもらって猛練習したみたいだよ」
「え!?」
「し、修斗君に!?」
「ほ、本当ですか!?」
「うん。真人君はそんな見栄を張る嘘を言う人じゃないし、週明け筋肉痛になってた時もあったから。きっとその成果が出てきてるのかもね」
「「「……」」」
四人が再びグラウンドを見ると、またしても相手の御蔵が真人を抜こうとしていた。
が───
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