第843話 真人がピッチへ

 俺たちのクラスの一回戦……四組との試合が始まり、前半が終了してスコアは1対0で俺たちのクラスがリードしている。

 前半は一哉と健太郎が出場していた。

 ディフェンダーの一哉はボールが自分の所に来たらクリアし、ディフェンスも積極的に行うなど、サッカー未経験でなかなかの貢献をした。

 一方の健太郎もディフェンダーだったのだが、因縁があった彼らに特訓をしてもらったおかげか、相手からボールを奪ったりドリブルで敵陣に持っていったりと一哉以上の活躍を見せていた。

 それよりも健太郎がボールを持った時の女子の声援が凄かった。さすが学校一のイケメン。

 ちょっと息を切らせながらピッチから出ようとする一哉と健太郎は、ピッチに入ろうとしている俺へと向かって走ってくる。

「真人、あとは頼むぞ」

「頑張って真人。特訓の成果を見せつけちゃって」

「わかった」

 ふたりとハイタッチをしてからピッチに入り、左バックのポジションにつく。

 親友ふたりはいないが、だからと言って仲のいいやつがひとりもいないわけではない。

「中筋ー! 頼むぞ!」

「ゴールは任せたぞ泉池!」

 後半のゴールキーパーは泉池だ。そのガタイのデカさでゴールの死守を期待する。

 まぁ、こいつは運動ができる方だからやってくれそうな気がする。

 俺は泉池と手を振り合い、センターサークル……その真ん中に置かれてあるボールを見る。

 うちのクラスのフォワードはサッカー部の高木と陸上部のふたり。

 対して四組は……確かひとりがサッカー部だったような気がする。

 現役サッカー部がいるのはやっぱり不安だが、修斗にあれだけ特訓してもらったんだ。なんとか食らいついていかないとな。

「「「まさとせんぱーい! がんばってくださーい!」」」

 少し離れた場所から女子の声が聞こえて、そちらを見ると一宮さんたちがいた。

 隣にはしっかりとスマホを構えている坂井先生。さっきの一宮さんたちの声も絶対に収録されたはずだから、綾奈がヤキモチ焼くかもしれない……。

 とりあえず三人に手を振っておこう。

 手を振って前を向いた直後に後半がスタートした。

 相手ボールからのスタートで、フォワードふたりがパスを回して一気にこちらに進軍してくる。

 運動部に所属している人もいるけど、やはりサッカー部にサッカーでは勝てず、わりと簡単に抜かれている。

 そして相手のサッカー部が左バックの俺の所までやってきた。正面からは行かずにサイドから狙う作戦か。

 俺のクラスのディフェンダーは四人。俺の隣のポジションにいたクラスメイトがこちらにやって来るが、間に合わずに俺も簡単に抜かれてしまった。

 あとはゴールキーパーの泉池との一騎打ち……と思いきや、うちのクラスのサッカー部高木がここまで戻ってきていたようで相手からボールを奪いクリアした。

 そこから自分で持っていこうとはせず、クラスメイトに任せることを選んだようだ。まだもう一試合あるし、始まったばかりで体力を使いたくないんだろうな。

「悪い。助かった」

「気にすんなよ。俺もできるかぎりフォローするから、遠慮せずぶつかっていってくれよ」

 俺が謝ると、高木はそう言い、俺の肩をポンと叩いてまた上がっていった。

 修斗との特訓の成果がいきなり発揮できなかったが、まだまだこれからだよな。

「ドンマイ中筋! 切り替えていこうぜ!」

「おう!」

 泉池も言葉をかけてくれて、俺は守りに集中することにした。

 それにしても、さっきの相手サッカー部の動きを見て思ったけど、あいつは修斗よりも遅い。

 まだ始まったばかりで実力を全然出していないかもしれないけど、直感的にそう判断した。

 仮に修斗よりも遅く、技術的にも下だとしても、俺よりも上だということには変わりない。だから俺は、修斗との特訓、そして自主練を思い出して、立ち向かっていくだけだ。

 この試合でも、そして決勝か三位決定戦でも、サッカー部からボールを奪ってやる!

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