第841話 部長にデレデレ?
「なーにひとりで叫んでんのマサ」
「杏子姉ぇ、茜、それに……部長!?」
杏子姉ぇの声が近くから聞こえて、そっちを見たら三人がこっちに向かって歩いていた。
坂井先生も三人にスマホを向けている。
というか杏子姉ぇが歩くとそれだけで周りがザワつくんだよな。
今年の一月からこっちに転校してきたけど、他の生徒は杏子姉ぇを見るとやっぱり嬉しいのかはしゃいでいる生徒が多い。さすが超人気若手役者は違うな。
それにしても、杏子姉ぇと茜は親友だからわかるけど、部長まで一緒とは思わなかった。
春休みのあの一件以降、もしかしたら仲良くなったのか?
「坂井先生。なんで真人を撮ってるんですか?」
そう言ったのは茜だ。
何も知らなければ、坂井先生が俺を撮影しているのは不自然だもんな。
「麻里奈と綾奈ちゃんに頼まれたのよ。今日の中筋君の動画を撮ってほしいってね」
「ああ、納得」
「確かに。というか坂井先生って松木先生と知り合いだったんですか?」
そっか。茜は麻里姉ぇと坂井先生が大学時代からの友人って知らないんだったな。同い年(だよな?)だけど、別の学校の音楽教師だから、接点があるとは思わないよな。
坂井先生が麻里姉ぇとの関係を茜に話すと、茜は驚いていた。
ただ、坂井先生の方も思うところがあったのか、スマホを俺と茜交互に向けて言った。
「中筋君が杏子さん以外の先輩とそんな親しげにするのは知らなかったけど、ふたりも仲良いの?」
茜が麻里姉ぇと坂井先生の繋がりを知らなかったように、坂井先生もまた、俺と茜の繋がりを知らなかった。
音楽は全学年受け持つけど、俺と茜は学年が違うから坂井先生とのあいだに話題が出ることはないからな。
「そうですね。実は真人とは幼なじみなんですよ」
「そうなの!?」
やっぱり驚くよな。
「はい。小さい頃は、キョーちゃんと三人でよく遊んでました」
「ねー。楽しかったよねー!」
「ふたりがイタズラばかりして、俺がよく泣かされてた記憶が半分以上占めてるけどな」
当時の俺はマジで泣き虫でちょっとしたことでも泣いていた。
杏子姉ぇたちも元々イタズラが好きだったから、一緒に遊んでも一回は泣かされていたと思う。
美奈はまだ幼稚園児で危ないという理由から、俺たちと一緒に遊ぶことはあまりなかったけど、情けないアニキの姿を見られなくてよかったと今更ながらに思う。
「でも、マサも楽しかったでしょ?」
「……そりゃ、楽しいと思わなければ毎回遊んだりしてなかったよ」
「でしょ~? も~素直じゃないんだから私の弟は」
そう言って杏子姉ぇは俺の頭を撫ではじめた。
「ちょ、やめろって杏子姉ぇ……!」
「照れない照れない。たまにはアヤちゃんじゃなくてお姉ちゃんに甘えてもいいんだよ~」
「仮に甘えるにしても、時と場所を選ばせてもらえないですかね?」
ただでさえ杏子姉ぇは目立つのに、こんな所で撫でられたら周囲の人たちみんな見るんだから。
「ふふ、杏子さんと中筋君は仲良しなのね」
俺たちを見て微笑みながら部長が言った。
「あったりまえじゃん!」
「……まぁ、そうですね」
仲が悪かったらこんなことは絶対しないからな。
「中筋君、私も応援してるから」
「はい! ありがとうございます部長」
部長はにっこりと笑った。
あんまりまじまじと部長の顔を見たことがなかったけど、部長も綺麗な顔してるんだよな。真面目だし、けっこうモテてるんじゃ……。
「綾奈ちゃーん、松木せんせー。真人が久保田さんにデレデレしてまーす」
「お、おい! 何適当なこと言ってんだよ茜! してないから!」
「そ、そうよ東雲さん! 婚約者がいる中筋君が、私なんかに……」
「とか言って、部長ちゃんもまんざらじゃない感じじゃない?」
「な、何言ってるのよ杏子さん!」
「あー、部長。いつものイタズラだと思うので気にしない方がいいですよ」
今のふたりと真面目に話してもこっちが疲れるだけだからな。
それはそうと、茜の適当な発言はぜひカットしてもらわないと、俺が危うくなる。
「坂井先生、さっきの茜の部分はカットでお願いします」
「……考えておくわね」
約束はしてくれなかったけど、カットしてくれることを祈ろう。
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