第839話 画策
一方、真人が登校する前の風見高校四階の渡り廊下で、ある三人組の男子が続々と登校してくる生徒を見ながら話をしていた。
「……いよいよだな」
「……そうだな」
「この日をどんなに待ちわびたことか」
三人はそれぞれを見ながら不敵に笑う。
「今日は俺たちサッカー部が活躍するまたとない機会だ!」
「いいとこ見せて杏子ちゃんや他の女子たちの注目を集めて……」
「必ず夏までにカノジョをゲットするんだ!」
三人はサッカー部所属の二年生、
彼らには目標があった。今日の球技大会、男子の種目はサッカー……そこで活躍をし、彼女を作るという目標が。
というのも、風見高校サッカー部は、二年生は三人以外彼女持ちという環境で、部室はもちろん、部活中でも自分たちの彼女自慢をする会話を毎日のように聞いており、三人は微妙に肩身の狭い思いをしていた。
「他のヤツら、いっつもいっつもカノジョの話をしやがって……」
「カノジョがいない俺たちの身にもなれってんだ!」
「そうだそうだ!」
彼らも決して容姿が優れていないわけではなく、特に高木は大体の人がかっこいいと言うくらいには整った容姿をしている。
が、三人とも貪欲かつがっつきすぎるので、女子たちは皆敬遠している。
「だが、それも今日までだな」
「俺たちのプレーを見た女子たちはきっと俺たちにイチコロだろう」
「ああ、今日の球技大会、試合以上に本気でやらないとな!」
自分たちの華麗なボール捌きを見て、校内の女子たちは自分たちに心を奪われる。そう信じてやまない。
実際に彼らのスキルは高く、特に長岩はレギュラーで時期エースの呼び声も高いプレイヤーだ。
他のふたりも長岩にこそ劣るが、素人相手には負けない技術を有している。
「お前ら、わかってるな」
「もちろんだ」
「忘れるわけがないだろ」
そんな彼女が欲しくてたまならい三人には、ある作戦があった。
「中筋真人を徹底的に狙い、あいつの醜態を全校生徒に……女子に晒すんだ!」
それは、風見高校一有名な男子生徒、真人を徹底マークすることだった。
「あいつばっかりいい思いしてよー」
「杏子ちゃんのいとこだからって杏子ちゃんにベタベタしすぎなんだよ!」
「しかもなんだよ『真人神様』って」
現在活動休止中ではあるが超がつくほどの人気女優、そして風見高校一の美少女の杏子。その杏子にいとこだからといって毎日のように仲良く話し、そして一宮みなみたち三人の後輩美少女に『真人神様』と呼ばれチヤホヤされる真人こそが、三人の最大のターゲット。
実際は真人からではなく杏子から真人にベタベタしているし、真人神様呼びにも困った反応を見せているのだが、そんなものは三人は関係ない。美少女と仲良くしている。そこが許せなかった。
真人が今のようになるまでにはかなり多方面で努力をしてきた結果なのだが、三人にはそんなこと知らないしどうでもいい。
さらに真人たちのクラス一の美少女、香織も真人を慕っているのも火に油を注いでいた。
「婚約者がいるのに、なんであいつあんなに人気なんだよ? 意味わかんねー」
「それな。……勉強がそこそこできるから? 俺たちも勉強すれば……」
「おいやめろ! 勉強なんて俺たちには無理な世界だ! 自分たちの土俵で勝負するんだろ!」
高木が一瞬揺らぎかけたが、御蔵が高木の肩を掴み、リアルに揺らしながらなんとか止める。
「言っておくが、裏切ったら処すからな。わかってるよな?」
「あるわけないだろ。アイツは俺たち共通の敵だ」
「高木……お前が一番危ないんだよ。アイツのクラスメイトのお前が」
「裏切るわけねーだろ。俺たちの一回戦は御蔵、お前らのクラスとだから、お前が中筋と一対一の流れに持ち込め。俺は中筋の真後ろであいつがお前に無様に抜かれるのを見てからフォローに入るつもりだから」
高木は真人のフォローには一切入らず、真人が抜かれたあとに御蔵をマークし、あたかもふたりが互角の真剣勝負をしている体のせめぎ合いを女子に見せ、真人を注目、慕っている女子たちの心を真人から自分たちへと向けさせる……そんな作戦を考えていた。
そして高木は、ふたりにも言っていない『ある人』の好意を自分に向けるために、並々ならないやる気を内に秘めていた。
クラスメイトを含むサッカー部三人が、自分に対しそんな画策をしていることなど、真人は知る由もないが、三人も真人がこの日のために短期とはいえかなり密度の濃い特訓を積んできていること、そして綾奈のために発揮する真人の底力など知る由もなかった。
そんな舐めてかかっている真人に足元をすくわれることも、さらに試合が終わったあと、勝手に目の敵にしている真人と、三人のうち二人が友好を結ぶことになることも、高木が裏切ることも、彼らはまだ知らない……。
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