第837話 指輪とペンダントを預ける
俺が満足するまで撮り終えると、俺はスマホをポケットにしまって綾奈を見た。
「……」
綾奈も俺の視線が気になるのか、またモジモジして落ち着かない様子だ。
撮影会も終わったことだし、早くイチャイチャしたいと思っているかもしれない。
俺だって早くイチャイチャしたい。だけどその前に済ませておかないといけないことがもうひとつだけある。
「綾奈」
「な、なぁに真人?」
少し肩が跳ねた綾奈。ついにイチャイチャタイムが始まると思ったからかもしれないが、もうちょっとだけ待ってほしい。
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「うん」
俺は綾奈に近づきながら、左手の薬指にしてある指輪を外して、左の手のひらの上に。
「俺が帰ってくるまで、この指輪とペンダントを綾奈に預かっといてほしいんだ」
俺が頼みたかったのはそれだ。
今日は球技大会で、試合中はボールが近くに来たら動き回らなければならない。
サッカーだから基本手は使わないが、それでも俺たち生徒が動いたり、風が吹けばグラウンドの砂や土煙が舞い上がったりする。
それによって指輪が汚れてしまう恐れがある。
ペンダントは基本服の下に隠しているから土煙等の問題は基本的には受けないが、敵チームの生徒との対決でもしも転んでしまえば、ペンダントにも傷がついてしまうかもしれない。
クリスマスイブと俺の誕生日に綾奈から貰った、俺にとって綾奈の次に大切なふたつの贈り物をむやみに傷つけることはしたくない。
なら家に置いとけば良かったじゃん……と言われてしまうかもしれないし、実際に俺も家を出るまでに考えていた。
だけど、昨日の体育祭で綾奈が俺に自分の指輪を預けてくれたように、俺も綾奈にこの指輪とペンダントを持っていてほしい……そう強く思ったから、ここまで着けてきた。
「わかったよ。じゃあ今日は、私が預からせてもらうね」
綾奈は即答して手を出してくれたので、俺は指輪を綾奈の手のひらに優しく置いた。
「えへへ~♡」
自分の手のひらに置かれたシルバーの指輪を見て、綾奈はふにゃっとした笑みを見せた。自分のピンクゴールドの指輪だけじゃなくて、俺の指輪を見ても嬉しくなるんだな。
そんな笑顔を見て、俺は本当に綾奈に愛されていて大切にされているって再認識させてくれる。
俺はテンションが上がり、口が弧を描きながら、俺はペンダントも外し、それも綾奈へと手渡した。
「終わったらまた取りに来るから」
「駅で待ってるから、終わったらメッセージを送ってほしいな」
「マジで?」
「うん!」
なんと、駅まで来てくれるとは……。
疲れて帰ってきたところにお嫁さんが駅で待っててくれるなら、こっちに戻ってきた瞬間に癒されるの確定じゃないか。
「でも、昨日の疲れは大丈夫?」
もちろん来てくれるのは嬉しいけど、もしも体育祭の疲れが完全に取れていないのなら、その分回復に時間を使ってほしいというのもまた本音だ。
「大丈夫。あんまり競技には参加しなかったし、毎日真人と鍛えてるから」
そう言って綾奈はにっこりと笑った。
ここまで言われると、心配する方が逆に失礼だな。
「わかった。じゃあ駅で会おうね」
「うん!」
それからは明奈さんの声がかかるまでイチャイチャした。
昨日の朝、綾奈が言ってくれたように、昨日俺があげたパワーの倍くらい、綾奈から貰った気がする。
球技大会、頑張るぞ!
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