第836話 真人だけのチアガール
「あ、綾奈……その衣装、どうして?」
体育祭の、特別プログラムから借り物競争までの期間限定かと思われたチアガール衣装を綾奈が着ている!
これは……これから球技大会に向かう俺を応援したいがために着てくれたのも、これは確かにここに来てほしい俺に理由を話したらインパクトが薄くなってしまうな。サプライズがベストだ。
綾奈のキュートなチアガール姿を見て、ドキドキしながらそんなことを思って、そしてまた別のことを考えていた。
この衣装は間違いなく学校のもので、あの特別プログラムに参加した生徒へ貸し出しているものに違いない。
参加した生徒一人一人に衣装を進呈するのなら話は変わってくるが、さすがにそれはないだろうな。
特別プログラムに参加する生徒が決まってから衣装を作るまでの時間が圧倒的に少ないし、費用だって安くないはずだ。
あらかじめ同じサイズの衣装を何着か揃えていて、それを貸してるだけだと思うけど、だとするとやっぱり家で綾奈が着ているのは不自然だ。可愛いから非常に眼福なのは間違いないけど。
「その、学校に返す前に、クリーニングに出さなきゃいけなくて、それで今日、この時間に真人を応援できると考えて来てもらったの」
「な、なるほど……あれ? クリーニング代って、もしかして綾奈たちが出すの?」
こんなめちゃくちゃ可愛い綾奈を前にして、よくこんな現実的な考えが浮かんだなと自分でも思う。
あの特別プログラムに参加した高崎の美少女たちは、おそらくほとんどが他薦のはずだ。いや、たとえ自選でもクリーニング代を生徒側に負担させるのはさすがにどうなんだと思ってしまうが……。
「それは大丈夫だよ。領収書を先生に提出したら、お金は返してくれるから」
「なら安心かな」
さすがに負担させて学校側がそのままってのはないか。
「あの、真人……」
「あ、ご、ごめん! 似合ってるよ。すごく可愛い」
俺の名を呼んだことで、まだ衣装の感想を言ってないことに気づいた俺は、慌てて感想を言った。
「あ、ありがとう。可愛い……えへへ♡」
俺に『可愛い』と言われて嬉しくなったのか、綾奈は頬を染めてふにゃっとした笑みを見せ、その場でぐるっと回ってみせた。
「っ!」
短いスカートがふわりと舞い、危うく中が見えそうになったが、ギリギリで見えなかった。
俺は一連の綾奈の可愛さ、そして仕草から、すぐに綾奈との距離を詰めていつもより少しだけ力を入れて綾奈を抱きしめた。
「ぁ……」
俺の行動に少し驚いた様子の綾奈だったが、それも一瞬で、俺の胸に頬擦りし、両手を俺の背中とリュックの間に入れてきた。要するに俺を抱き締め返してくれた。
「真人。球技大会、頑張ってね」
「うん。めっちゃ頑張る」
これで頑張らなければ確実に男がすたる。
綾奈のおかげで元々高かった球技大会へのモチベーションがさらに上がった。
だけど、もう少しだけ……。
「あの、綾奈さん……」
頬擦りをやめて俺を見上げる綾奈。どうしようもなく可愛すぎる。
心臓が鼓動を強め、頬も熱くなる。
「どうしたの?」
「も、もっと頑張ると約束するので、時間までもっとイチャイチャしたいのですが……」
「っ! い、いいよ……」
俺からイチャイチャしたいと言われると思ってなかったのか、綾奈は目を見開いて驚き、頬を染めた。
だけど驚いたのもほんの少しで、綾奈は愛おしいものでも見るかのように目を細め、そして完全に目を閉じた。
早くキスがしたいと思っていた俺は、ゆっくりと顔を近づけ、綾奈の唇を自分の唇を押し当てた。
「ん……ましゃと……んんっ」
いつもは綾奈から舌を絡ませてくることが多いけど、今日は俺からだったので、ちょっと驚いているみたいだったけど、すぐに綾奈からも舌を絡ませてきた。
綾奈とのキスに夢中になり、俺が甘えモードになる寸前、大事なことをしていないのを思い出し、俺は唇を離した。
「あ……」
俺がキスをやめると、綾奈は小さく声を出し、眉を下げてしょんぼりとしてしまった。どうやらまだし足りないようだ。
俺もまだし足りないけど、忘れないうちにやっておきたいこともあるから、ちょっとだけ我慢してもらう。
俺は制服のズボンからスマホを取り出して綾奈に言った。
「綾奈、その姿……写真に撮りたいんだけど、いいかな?」
そう、俺が忘れていたことは、綾奈の今の姿を写真に収めることだ。
昨日のパフォーマンスの動画は、昨夜麻里姉ぇから送られてきて何回も見返したけど、自分で写真も撮りたい。
お嫁さんに関する願望……この場合は欲望と言うかもしれないけど、とにかくそれは尽きない。
「ち、ちょっと恥ずかしいけど……いいよ」
綾奈はもじもじしながら俺のお願いを受け入れてくれた。あぁ……可愛い……!
今この瞬間も写真に収めたいが、言質取った直後は夫婦と言えどマナー違反と思い我慢した。
こうしてプチ撮影会が開催された。
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