第835話 ソワソワの綾奈、その理由
高崎高校の体育祭の翌日、五月二十九日の月曜日。
今日は俺の通う風見高校の球技大会の日だ。
この日のために短い期間だけど特訓も重ねてきたし、修斗にも協力してもらった。
先週末も、土曜日はお昼から修斗に特訓してもらって、昨日も夜にちょっとだけど練習をした。
修斗の厚意に報いるためにも、チャンスがきたら積極的に動かないとな……!
俺は制服に着替え、リビングに降りて母さんの作ってくれた弁当をリュックの中に入れて、いつもより早い時間に家を出た。
サッカーの練習を始めてからは、また母さんに作ってもらっていたけど、明日からは自分で作るようになる。
今日のリュックはマジで軽い。球技大会しかないからなんだけど、授業道具はほとんど入ってない。置き勉をしているわけではない。というか中学時代の怠惰な頃の俺でも置き勉はやったことがない。当時は持って帰るだけで、家で教科書とノートを広げるなんてことは滅多になかったけど。
そんなことよりだ。綾奈はどうして家に来てくれなんて言ったんだろう?
綾奈も千佳さんも、昨日の体育祭で今日は代休だ。だから家から学校までずっとひとりだ。
この時間に綾奈に会えないのは内心嫌だったから、綾奈のお誘いは願ったり叶ったりだ。
だけど気になることがある。
それは早朝のランニング……今日もいつものように走ったんだけど、綾奈はどこかソワソワしている感じがした。
俺じゃないと気づかない微かなもの……ではなく、わりと誰でも気づけるくらいに緊張していた。
それでも息をあまり切らさずに走りきったのは日頃のトレーニングの賜物だろう。
ちなみに公園で休憩をしている時になんでそんなにソワソワしているのかを聞いたんだけど、『なんでもない』の一点張りで何も教えてくれなかった。
「ここはまっすぐっと」
いつもの綾奈と千佳さんと待ち合わせ場所としているT字路を駅方面には行かずにまっすぐ直進する。
それで綾奈の様子だけど、明らかになんでもないような雰囲気じゃなかった。誰の目から見ても明らかなほどに。
聞き続けていたら、いつものポンコツが発動して自白するかと思ったけど、それもなかった。
十中八九、今から綾奈の家に行くことに関係しているとは思うんだけど、一体何があるんだろう?
一緒に登校できないから、それで俺を家に招き、時間の許す限りイチャイチャしようとしているのか?
もちろんそれでも嬉しいし喜んで行くけど、なんか違う気がする。
いつものイチャイチャをするのに、あれだけソワソワするのが逆に不自然だ。
イチャイチャする前にちょっとドキドキするのはわかる。だけどちょっとどころではなかったからなぁ。
今さらイチャイチャするのにあの落ち着きのなさはなぁ。
となると、イチャイチャとは別の理由があるってことになるけど……肝心のそれがマジでわからん。
考えても答えは出ないから、とりあえず綾奈の家まで急ぐか。
インターホンを押すと、明奈さんが応答してくれて、その明奈さんが玄関のドアを開けてくれた。
「おはよう真人君」
「おはようございます明奈さん」
まだまだ朝の早い時間で、そのことを謝ろうとここに来るまでに決めていたけど直前でそれをやめた。
今までも何度か明奈さんとそのやり取りをしているが、毎回『いいのよ気にしなくて』と言われるからだ。
俺を家族と認めてくれていて、ここも俺の家と言ってくれる明奈さんの優しさ……そんなお義母さんに毎回謝るのも、同じことを言わせるのも逆に申し訳ないと思って言わないと決めた。
俺が謝らなくても、明奈さんはにこにこと綺麗な笑顔を俺に向けてくれている。
俺は明奈さんから視線を外し、玄関の先の廊下を見るが、綾奈はいない。リビングにいるのかと思ったけど、出てくる気配もない。
となると……二階か?
だけど、俺が来てすぐに姿を見せないのも非常に珍しいな。
いつもならすぐに駆けつけて俺に抱きついてくるのに。
「あの、綾奈は……?」
「綾奈なら自分の部屋にいるわ。真人君を待ってると思うから、早く行ってあげて」
「わ、わかりました」
俺は家に入り、自分専用のスリッパを出して廊下にあがり、そのまま階段を上って綾奈の部屋の前に来た。
多分足音で俺が部屋の前にいることは知っているはずだけど、扉が開く気配はない。
とりあえず扉をノックしてみた。
『は、はい……!』
中から綾奈の声が聞こえたけど、なんで上擦ってるんだ?
「綾奈。真人だけど……」
『う、うん! 入って……』
声が硬いなと思いながら、俺はドアノブを回し、ゆっくり扉を開け、俺は息を呑んだ。
「……っ!」
部屋の中には確かに最愛のお嫁さんがいた。
だけど部屋着ではなかった。
あれは……昨日の体育祭の特別プログラムで着ていた……チアガール衣装!?
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