第831話 同盟の解散
さっきした約束の指きりをしていると、また八雲さんと、それから面識のない女子生徒四人が俺と綾奈の前にやってきた。多分八雲さんと同学年の人たちなんだろう。
八雲さんは真剣な顔で、また綾奈にくっつきにきたわけではなさそうで、他の女子生徒はなんだか複雑な顔をしていたり、物悲しい表情をしている人ばかりだ。
「綾奈先輩、真人先輩。また少しお時間いいですか?」
八雲さん、声も真剣だ。真面目な話をするんだな。
「大丈夫だよ夕姫ちゃん。どうしたの?」
綾奈が八雲さん以外の名前を呼ばなかったし、『みんな』とも言わなかったということは、綾奈も四人とは面識がないみたいだな。
八雲さんの友達は綾奈と喋ってみたくて八雲さんに頼んで連れてきてもらったとか?
でも、それならもっと嬉しそうな顔をするもんだけど……。
「この四人は、私と同じ『あの同盟』のメンバーです」
「「!」」
あの同盟……『圭×綾カプ至高同盟』のメンバーってことか。
八雲さんを入れて、この学校に入学してきたメンバーだけで五人もいるんだ。
他の人もいると考えると、綾奈と中村の組み合わせはそれほどまでに人の心を動かしたってことになるのか。
だけど綾奈が選んでくれたのは俺だ。
今さら綾奈と中村のカップリングが至高と言われても、綾奈を離すつもりなんてない。
中村だって俺たちを応援してくれているんだ。当事者が誰も望まない選択を四人の意思で変えるつもりはさらさらない。
俺は気を引き締め、綾奈と手を繋いだまま一歩前に出た。
「君たちは、やっぱりまだ綾奈は中村と付き合うべきだと……そう思ってる?」
「「!?」」
同盟の子たちがちょっと驚いている。もしかしたら怖がらせてしまうかもだけど、ここでやめるわけにはいかない。
俺たちはもう婚約してるんだ。他人の理想に打ち砕かれるほど、俺たちの絆は薄っぺらくない!
「君たちには辛い現実かもしれないけど、綾奈が選んだのは俺なんだ。君たちがなんと言おうと、俺は綾奈を離すつもりはないよ」
「それは私もだよ」
綾奈も一歩前に出て、俺に並んでそう言った。
「私も真人を離すつもりなんてないし離れるつもりもないよ。誰に何を言われても、真人のそばを……私の幸せの場所を手放したりしないよ」
綾奈は俺と繋いでいる手に力を込め、俺に満面の笑みを見せてくれた。
嬉しくなり、俺も綾奈に笑顔を見せていると、八雲さんが入りづらそうな声をして言った。
「あの……おふたりとも。みんなそんなこと……というかまだ一言もしゃべってないですから」
「「え?」」
「四人が来たのは、改めてふたりを見たかったからなんです」
俺たちを見たかった?
「なんでまた?」
疑問に答えてくれたのは、同盟のひとりだ。
「その……さっきの借り物競争で、西蓮寺先輩が中筋先輩にあんなに甘えているのを見て思ったんです。中村先輩と付き合っても、西蓮寺先輩はあんな風にしてたのかなって」
それは誰にもわからないんじゃ───
「しないよ」
綾奈さん断言しました! 言い切るのがすごいけど嬉しい。
「それで……西蓮寺先輩が幸せなら、もう同盟もなくていいかなって」
「八雲さんから話がいったわけではなかったの?」
先月のあの騒ぎのあと、八雲さんから他の同盟の人たちに言ったとばかり思ってたけど……。
「聞きましたけど、やっぱり信じられなかった……ううん、信じたくなかったんです」
「ちゃんと言ったんですよ。……綾奈先輩がキレたことも」
八雲さんは自分を軽く抱きしめてブルブルと震えている。顔もちょっと青いし、もしかして綾奈に怒られたのを思い出してるのか?
「綾奈って、怒るイメージないもんね」
綾奈と八雲さん以外がうんうんと頷いた。
「と、とにかくです! 私はもう抜けてますが、同盟は解散することを伝えるためにみんなで来たわけです!」
これ以上思い出させないでほしいのか、八雲さんが話を終わらせようと声を大にして言った。
憧れの綾奈にブチギレられたのは、まだまだトラウマとして残るかもしれないな……自業自得だけど。
みんなは同盟の正式な解散、そして他のメンバーにもちゃんと言い聞かせることを約束して、俺たちに一礼して離れていった。
「……とりあえず同盟の件は完全決着でいいのか?」
「だと思うよ」
「じゃあこれで俺たちの交際を反対する人はいなくなったわけだね」
「うん!」
綾奈はとても嬉しそうにくっついてきたので、男女混合二人三脚までふたりで仲良くおしゃべりをしながら観戦し、最終競技のリレー前に、綾奈は自分のチームのテントに戻っていった。
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