第827話 後輩女子たちとの再会
「あ、あの……中筋先輩!」
借り物競争が終わり、体操着に着替えるため校舎の方に向かった綾奈と千佳さんに手を振っていると、後ろから女の子に声をかけられた。
なんだか聞き覚えのある声だと思いながら後ろを振り返ると、そこには八雲さんの他に三人の女子生徒がいた。その子たちは八雲さんと同じ合唱部に所属していた、俺の後輩だ。
「お、おぉ……久しぶりだねみんな。元気してた?」
みんなは「はい!」と元気に答えた。
俺はこの子たちとも、当時の八雲さんみたいに部活中におしゃべりをする間柄ではなかった。というか女子とは全然喋らなかった。
だからこの子たちのことは、ぶっちゃけてしまえば『知っているだけ』だ。こんなに笑顔で俺に返事することに驚きを隠せない。
「もしかして、さっき手を挙げてくれた?」
遠目でわからなかったけど、俺と同じ中学出身で部活も同じな彼女たちだ。俺がオタクなのも知ってると思って聞いてみたが、やはりそれは正しかったようで、みんな「はい」と肯定してくれた。
「ありがとうみんな。助かったよ」
「いえいえ。綾奈先輩のためですから」
違う色のハチマキをしてるから、手を挙げずにいたら『朱雀』には綾奈の分の得点は入らなかったし、そういった戦術を使う人がいてもおかしくないのに、この子たちはそんなことを全然考えてもいなかったようだ。
改めて綾奈が後輩に慕われているのだと再認識することができた。
「三人も、やっぱり合唱部に入ったの?」
「はい。私たち、高崎高校に入って、松木先生の指導を受けてみたかったので!」
一番最初に俺に声をかけた、黒髪ショートの後輩が言った。
「ふたりも?」
もうふたり……栗色のセミロングの子と杏子姉ぇの髪よりも薄い紫のセミロングの子が「はい」と言った。
そうだよな。麻里姉ぇってめちゃくちゃカリスマ性があるんだった。教師を志す前はプロの歌手を目指していたから、知識は豊富だし教え方もうまい。加えてあの美貌だ。そりゃ指示を仰ぎたい人はいっぱいいるだろうな。
「麻里姉ぇって厳しいだろ?」
麻里姉ぇは普段は優しいけど指導にはマジで容赦がない。綾奈からいつも聞いてるし俺も一度だけ経験があるからな。
だけど三人は俺が「麻里姉ぇ」と言ったことにテンションを上げているようで、「本当に麻里姉ぇって言ったよ!」、「聞き間違いじゃなかった!」って言っている。
綾奈の婚約者で、麻里姉ぇは綾奈のお姉ちゃんというのはここにいる全員が知っていることだから、俺もいつもの呼び方にしたんだけど、こんなにきゃーきゃー言われるとは思ってなかったな。
「松木先生、部活では厳しいのに、真人先輩にはその逆でめっちゃ甘やかしていたから、そのギャップに驚いてます」
いまだにテンションが上がっている三人の代わりに言ったのは八雲さんだ。借り物競争の時、八雲さんの隣で「麻里姉ぇ」と言ったけど驚いてなかったっぽいから知ってたのかなと思っていたけど、どうやら驚きよりも麻里姉ぇのプレッシャーが勝っていたみたいだ。
「まぁ、うん。麻里姉ぇは普段からあんな感じだよ」
優しいし普通に頭を撫でてくる(くれるとも言う)し、ハグもされたことがある。マジで俺に甘い。
「中筋先輩。普段の松木先生はどんな感じなんですか? 教えてください!」
「あれ? 綾奈からは聞いてないの?」
俺に聞くより、綾奈に聞いた方が確実だと思ったのに、部活前後に話してないのかな?
「聞きたいんですけど、先輩方や夕姫がいつもいるから、なかなか聞けないんですよ」
なるほどそういうことか。
「八雲さん本当に相変わらずだな!」
「私の綾奈先輩への愛を舐めないでくださいね」
「いや、舐めてないけどさ……」
本当、なんでいちいち張り合おうとしてるんだか……。
ここで俺まで八雲さんに張り合いだしたら収拾がつかなくなり、三人のお願いを聞いてあげられないと思った俺は、八雲さんをスルーして普段の麻里姉ぇについて話した。
もちろん込み入った話はしなくて、優しいくて甘やかしてくるのと、たまにイタズラもすることを実際にあったことを入れながら説明した。
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