第825話 紳士ポイント
『大縄跳びでの中筋君の熱い声援、お昼休みにも一緒にいて仲の良さを私たち友人に見せつけていましたが、ここにきてまだ特大のイチャイチャが待っていました!』
江口さん、テンション高いなぁ。このお姫様抱っこを見て素でテンションが上がってるのか、それとも場を盛り上げようとしているのか……この場合はおそらく両方だな。江口さん、綾奈たちのグループの盛り上げ役だし。
おっと、江口さんについて分析してる場合じゃないな。綾奈をお姫様抱っこしてる以上、チーム『朱雀』のポイントは俺の頑張りにかかっているんだ。早いとこゴールを目指さないと!
「じゃ、いってきます。綾奈、しっかり掴まってて!」
「頑張って真人」
「あたしたちのチームのために頑張ってよ!」
「真人君。しっかりね」
「頑張れ真人君!」
みなさんの応援を力に変え、俺は綾奈を抱えたまま走り出した。
ただ、綾奈が何も言わなかったことは気になるけど、早くしないと一位でゴールできないから、俺は綾奈の様子は見ずにだけど……。
『中筋君が再びトラックを駆ける! しかも今度は大事なお嫁さんを抱えながら……って、よく見ると綾奈ちゃんの膝に中筋君のジャケットがかけられている! これは紳士ポイント二万点だー!』
なんだよ紳士ポイントって? 一定ポイント貯めれば何か貰えたりするのかな?
『こういうさりげない優しさが、義弟のいいところのひとつです』
ここで俺を褒める麻里姉ぇ。普段なら照れるところだけど今は照れてる場合じゃない。早く、そして綾奈に衝撃を与えないように走らないと!
「はっ……はっ……!」
綾奈を気遣いながらだから、いつもよりスピードは出ないし体力もいっぱい削られる。
『麻里奈先生、綾奈ちゃんさっきから中筋君の顔ばかり見てませんか?』
え? マジで?
『みたいですね。どうやら自分を抱えながら必死に走っている婚約者に見惚れているようですね』
「ま、マジで!?」
だ、だから綾奈はさっきから一言も喋っていなかったのか!
くそ、綾奈の顔見たいけど今はそれどころじゃない! マジでこのまま一位をキープしないと───
『トップのチーム『朱雀』、綾奈ちゃんと中筋君の夫婦ペア。ゴールまで約三十メートルのところですが、後ろから他のチームの三人もそれぞれ借り物を持ってコースに復帰! 中筋君との距離はまだありますが、じりじりとその距離は縮まっている! 中筋君が逃げ切れるか、それとも他の三人が追いつくか、勝負はわからなくなりました!』
あと三十メートルもあるのか。後続との差はどれ位かはわからないけど、このままだと追いつかれるかもしれない。
現在の得点トップは四組のチーム『青龍』。もしも二位がその『青龍』の人なら絶対に追い抜かれるわけにはいかない……!
「綾奈、悪いけどスピードを上げるよ! 揺れが強くなるけど我慢して!」
綾奈を気遣いながら走り続けと絶対追い抜かれると判断した俺は、スピード重視の走りに切り替えた。
『おぉ! 中筋君ここにきてスピードアップ! まだ余力を残していたんですね!』
『というより、抱えている西蓮寺さんを気遣って今までセーブしていたのでしょうね』
『そうなんですね! これはさらに紳士ポイント三万点追加だ!』
これで紳士ポイントが五万点になった。多分江口さんが言いたいだけだな。
相変わらず何も言わない綾奈だけど、もしかしてまだ俺に見惚れているのか?
だとすると多少強く揺れても綾奈は気づかないかもしれない。綾奈にはちょっと申しわけないけど好都合だ。
「うおぉぉぉぉ!」
ゴールまで残り十メートル、俺は残ったスタミナを全て使い切るつもりで全力で走った。
『中筋君ラストスパート! 今、一着でゴール!』
結果、なんとか一位を守りきってゴールし、俺がゴールした直後に三人もゴールした。ラストスパートをかけていなければ確実に抜かれていた。
「はぁ……! はぁっ……!」
俺は体力をほとんど使い果たし、ちょっとだけ腰を曲げて、綾奈を落とさないように大きく呼吸する。
そんな中でも綾奈は何も喋らないので、どうやらまだ俺に見惚れているようだった。
……もしかして、甘えモードに入った?
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