第824話 的中するオタクの勘

 綾奈の借り物競争が始まり、ずっとお嫁さんを見ていたんだけど、トップでお題を確認した綾奈がなぜか確認したあとも止まっていて、そしてなぜか驚いている。

 江口さんと麻里姉ぇが仲のいい掛け合いを繰り広げている中、他の生徒よりちょっと遅れて綾奈がまた走り出した。

 どうやら難しいお題を引いてしまったようだけど、どうにかできる算段をつけたみたいだ。さすが綾奈。頭の回転が速い。……って、あれ?

『西蓮寺選手もようやく再び走り出して……って、綾奈ちゃん、まさか───』

 なんか、綾奈がこっちに向かってきているような……?

「健太郎のオタクの勘、当たったみたいだね」

 千佳さんが確信めいて言った。

『綾奈ちゃんが向かう先、そこにいるのは───』

 そして、綾奈は俺の前で立ち止まった。

「まさと!」

『綾奈ちゃんの旦那様、中筋君だーー!』

 江口さんがそう言うと、周りにいた人たちと生徒から歓声と驚きの声が聞こえてきた。歓声は女性の声が多い。

 いやそれよりもだ。綾奈が引いたお題はマジで俺なのか?

 そんな偶然が起こるわけが───

「えぇ!?」

 綾奈がちょっとだけ息を切らしながら紙を広げ、そこに書かれている文字を見た俺は驚いた。

 これは、普通に走るのだと思ったけどそうじゃなかった。こんなお題まであるなんて……。

 みんなも驚いているんだけど明奈さんはきゃあきゃあ言ってテンションが上がっている。

「真人お願い! これは、真人にしかできないから!」

 当然だ。これは俺にしかできない。厳密には俺じゃなくても成り立つのだが、これは他の男には絶対にさせたくない。マジで今日、ここに来てよかったと思うよ。

 ちょっと人前でやるには恥ずかしいしドキドキもするけど、迷ってる場合じゃない。

「よっしゃ、行こう!」

「うん!」

 俺は自分の膝を叩いてから立ち上がり、靴を履いてトラックに入り、着ていたジャケットを脱ぎ、それを綾奈に手渡す。

「綾奈、これを膝の上に!」

「わかったよ真人!」

『おっと、中筋君が着ていたジャケットを脱いで綾奈ちゃんに渡しました。これは一体……?』

 江口さんが実況してるけど、もう普通に『綾奈ちゃん』って言ってるじゃん……。

 そんなことはさておき、俺は手を綾奈の背中と膝の裏に回した。その際に間近にある綾奈の綺麗な脚に目がいってしまい思わずドキドキする。チアガール姿でミニ丈のスカートを穿いてるから綾奈の美脚が目立つ。

『え? ちょっと待って……中筋君のあの体勢は、もしかして───』

「いくよ綾奈!」

「う、うん!」

 俺は綾奈の膝の裏に回している手に力を込めて綾奈を持ち上げた。


『お、お姫様抱っこだー! 最強イチャイチャ夫婦のお姫様抱っこです!』


 江口さんの言ったように、俺は綾奈を初めてお姫様抱っこした。

 上手くできるかちょっと心配だったけど、案外なんとかなるもんだな。

 綾奈が軽いってのもあるんだろうけど。

 綾奈が俺たちに見せた紙にはこう書かれていた。───


『オタク男子のお姫様抱っこ』

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