第819話 特別解説者

『競技内容はいたってシンプル! コースはトラックの四分の三。スタート地点から十五メートル先にお題が書かれた紙が入った箱がありますので、各自引いたお題に当てはまるものを持って、ゴールを目指してもらいます』

 トラックを見ると、スタート地点の少し先に実行委員の人が置いた小さい机……そしてその机の上に白色の箱が置かれている。あれにお題が書かれた紙が入ってるんだな。

 それよりも俺は、競技説明をしてくれた江口さんの言葉に引っかかりを覚えた。

 借り物競争はその名の通り、紙に書かれた物、もしくは人を借りてゴールする競技だけど、シチュエーションってなんだろう?

 借り物プラスアルファなことをしなければならないってことなのか?

 俺がいろいろ予想を立てていた俺だが、次の江口さんの言葉に俺は全ての思考が吹っ飛ばされる。

『なお、この競技には特別解説者をお呼びしております! 高崎高校の皆さんにはおなじみ、圧倒的人気を誇る超絶美人音楽教諭、松木麻里奈先生です!』

『よ、よろしくお願いします』

「ちょ、え、なにやってんだ麻里姉ぇ!」

 自然とそんなツッコミを入れるほど衝撃的だった。

 麻里姉ぇが喋ったことにより、高崎生は男子も女子も大盛り上がりだ。マジで人気が凄まじいな……。

それにしても、麻里姉ぇちょっと照れているな。『超絶美人』って言われたから。

「あら麻里奈?」

「みたいだな。それにしてもすごい人気だな」

「麻里奈ちゃん!? しばらく会ってないけど元気にしてるっぽいね!」

「うん。それに相変わらずいい声だね」

 大人の皆さんはあんまり驚いてないな。みんな落ち着いている。

『麻里奈先生。先生の注目はやっぱり妹さんですか?』

『そうですね。あの子がどんな走りをして、借り物は何を引くのか楽しみですね』

 江口さんが麻里姉ぇに普通に綾奈のこと聞くってことは、既に綾奈と麻里姉ぇが実の姉妹というのは学校中に知れ渡ってるみたいだな。

 つい最近まで合唱部のメンバーと江口さんと楠さんしか知らなかったのに……秘密を解禁してから全校生徒に知られるまでが早い。

 綾奈と麻里姉ぇが開けっぴろげすぎなのか、それとも姉妹そろって人気がありすぎるがゆえか……多分後者だな。解禁したといっても誰彼構わず言いふらすふたりじゃないし。人気に比例して広がるスピードが早いんだな。

 麻里姉ぇがそう言うと、自分のチームのテントで応援している高崎生から「西蓮寺さん頑張ってー」などの声がここまで聞こえてくる。

 この応援を聞く限り、秘密を打ち明ける前に麻里姉ぇが懸念していた『家族贔屓』云々は問題なさそうだな。よかった。

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