第818話 すぐに次の競技へ
俺たちは温かい拍手で退場していくチアガール姿の生徒たちに賞賛を送っている。
『いやー素晴らしいパフォーマンスでした! 華やかさはもちろん、力強さもあり、この拍手が意味するように、皆さんの心に、記憶にしかと刻み込まれたことでしょう! 私も眼福です!』
江口さん、ちょいちょい自分の感想を挟んだ実況してるよな。面白いから全然いいんだけどさ。
さすがにあれだけの美少女が揃えば、男子はもちろん女子も目にとめちゃうよな。
さっきの綾奈の動画……早ければ体育祭が終わるまでには麻里姉ぇが送ってくれると思うから、今日の夜はそれを最低十回は見ないとな。
ちょっと、いやかなりワクワクしながら、俺は次の競技がなんだったかを思い出していたのだが……あれ? この次って───
『さーこのテンションのまま、次の競技にいきましょう! 続いての競技は……女子による借り物競争です!』
「だよな!」
江口さんが言うのとほぼ同時に俺も思い出した。
借り物競争は綾奈が出場する競技だ。
……え? ということは、着替える時間がないんじゃ……?
『なお、先ほどの特別プログラムに参加した生徒の中に、借り物競争に出場する生徒がいると思いますが、その生徒はそのままの衣装で参加してもらうこととなります』
「マジかよ!」
今回の体育祭の競技順を考えたやつ……いや、多分先生だから『やつ』はダメだな。考えた人は何考えてんだろう?
……いや、偏差値は高いけど楽しむイベントはとことん楽しむ高崎高校だから、この競技順は今年だけじゃなくて例年なのかもしれない。
コスプレ……と言っていいのかはわからないけど、体操着じゃない服で競技に臨むのも、生徒や観客が楽しめる余興的なものなのかもしれない。そこら辺は事前に話が出てるはずだし、綾奈もそれ込みで特別プログラムに参加する意志を示したはずだ。
俺が一人で自己解釈をしていると、「ふぅ、あっつい……」と言いながら、チアガール姿の千佳さんが健太郎の隣に腰を下ろした。
「千佳、お疲れ様」
「あんがと健太郎」
健太郎は微笑みながら千佳さんを労い、千佳さんも笑顔で返していた。
「千佳、良かったよ」
「うん。あんなに踊れるのは知らなかったからびっくりした」
「千佳ちゃん綺麗だったわよ!」
「千佳ちゃん。ご苦労さま」
千夏さんたちも千佳さんにそれぞれ労いの言葉をかけている。
「あ、ありがとうございます」
「千佳さん、お疲れ様。とても良かったよ」
「真人もあんがと。てか、あんたは綾奈しか目に入ってなかったんじゃない?」
さすが千佳さん。お見通しってわけか。
「で、でも千佳さんや他の人も見ていたから! ……ちょっとだけど」
多分、綾奈を見つけてから退場するまでの時間の九割近くは綾奈だけを見ていた。
「ホントに正直だねあんたは。まぁ、真人らしいけどさ」
「ところで千佳さんは着替えないの?」
パフォーマンスが終わったのなら、チアガール衣装を着ている意味はないと思うんだけど……。
「綾奈と一緒に着替えに行こうと思ってね。綾奈だけだとよからぬ事を考えているバカもついてきそうだから」
よからぬ事を考えているバカって……もしかして覗き!?
俺は覗きをしている男子を想像してしまい、寒気と怒りが同時に俺の心を支配していく。
「ボディーガードの真人も、さすがに更衣室までは来れないからね。あたしに任せときなよ」
そう言いながら、千佳さんはニカッと白い歯を見せた。
「ありがたいけど、千佳さんも気をつけてよ?」
千佳さんもかなり綺麗な女子だ。高校生離れしたプロポーションをしているから、千佳さん目当てで覗こうとする男子もいるはずだ。
「大丈夫。もし覗こうとするやつがいたら……ボコるだけじゃすまさないから」
「っ!」
千佳さんの声が低くなり、殺気のようなものを感じて、俺は背中が寒くなった。
うん。綾奈を除けばその性格を一番理解している異性の友達の一人だから、ハッタリでこんなことを言っているわけじゃないのは考えなくてもわかる。
覗こうとしている予定の男子がいたら、生きて帰ってこられるかわからないな。
「って言っても、千佳も気をつけるんだよ?」
「わかってる。ありがとう健太郎」
千佳さんは笑顔で健太郎の手の上に自分の手を乗せ、ふたりはぎゅっと手を繋いだ。
昼休みにあれだけ綾奈とくっついていたのに、ふたりを見ていたらまた綾奈に触れたくなってきたな。
綾奈は今から借り物競争に出るから、それは我慢して綾奈の応援に集中しよう……!
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