第817話 綾奈の意思で

「でも、綾奈はよくこれに出ようと思ったな……」

 この特別プログラムのパフォーマンスは、自薦か他薦どっちなんだろう? 少なくとも綾奈が自ら手を挙げたとは考えにくいから、やっぱり誰かしらからの推薦と考えた方がいいとは思うけど……。

「最初は先生の指名だったのよ。千佳ちゃんと一緒に」

 俺の独り言に答えてくれたのは明奈さんだ。

「そ、そうなんですか!?」

 俺は明奈さんに振り向いた。

 まさか先生からだったとは。普通そういうのって生徒の誰かじゃないのか?

「綾奈から聞いた話だけど、多分話し合いをしても綾奈と千佳ちゃんを推す声しか出ないと思ったから先生は指名したそうよ」

「な、なるほど……。まぁ、綾奈と千佳さんのビジュアルは飛び抜けてますからね」

 ふたりのクラスメイトの江口さんたちも美少女だと思うが、失礼な言い方になってしまうけどやっぱり綾奈と千佳さんの可愛さは頭ひとつ抜けている。

 俺の言葉に健太郎はにこにこしながら頷いている。千佳さんの方をずっと見たまま。

「もちろん断ることもできたけど、綾奈は自ら先生の申し出を受け入れたのよ」

「そ、そうなんですか?」

 先生に言われたことにより、若干断りづらい空気だったと思うけど、それでも自分からやると言うなんて……。

「ええ。挑戦してみようと思ったのと、頑張って真人君にいっぱい褒めてもらいたかったのと、あと色んな自分を見せて、もっと真人君に好きになってほしいからって」

「っ!」

 最後の理由を聞いて、俺はドキッとした。

 今以上に、か……。

 俺はもう一年以上綾奈の虜だ。もちろん惚れた直後と今では好きの大きさは比較にならない。インフレが進みすぎてもう数値では測れないくらいなのに、綾奈はさらにその上を求めているのか。

「まったく、俺のお嫁さんは……」

 そんなの言われなくても、もっともっと綾奈を好きになっていってるのにな。

 綾奈がそれを望むのなら、数値を図る測定器を一瞬でぶっ壊すくらいの愛をあげないといけないな。

「真人、嬉しそうだね」

「そりゃ、そんなことを言われて嬉しくならないわけないさ」

 健太郎は「良かったね真人」と言って、また視線を千佳さんに戻していた。

「それにしても、正面から見たいな……」

 ここからでも綾奈の姿は見えるのだが、俺の願望というか欲望が増幅してしまい、つい今以上の願いを持ってしまった。

 正面でら見える所まで移動するか? 多分校舎と学校関係者以外は行けない場所以外なら入っても大丈夫だと思うし。

 でも曲のラストサビに突入したから、今からではもう間に合わないか……。

「それなら麻里奈が撮影してると思うから大丈夫よ」

「マジですか!?」

「えぇ。きっと真人君は見たいと言うはずだからって」

「ま、麻里姉ぇ……!」

 俺は麻里姉ぇに心からの感謝を心の中で送った。多分、合唱部の問題を解決してくれた時に近いくらい大きな感謝を。

 感謝しているうちに、特別プログラムは終了し、選抜女子たちは走って入ってきた入場ゲートからはけていった。

 それから少しして、麻里姉ぇからのメッセージを受信し、確認すると【一応綾奈に許可を取ってからさっきのパフォーマンスの動画を送るわね】と書かれていた。

 俺はメッセージでお礼を伝え、あとで直接お礼を言おうと心に誓った。

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